「大浮世絵展」は、今年の1月17日にも、江戸東京博物館で開催(1月2日~3月2日)中に観覧していますが、その時は、2時間ほどしか時間の余裕がなかったので、もう一度、ゆっくり観たいと思っていました。1月18日付の「舟木さんを探すさんぽ径」↓ 運よく巡回展示が名古屋であるというので、前売チケットを買って、16日に足を運びました。
若い頃は、洋画展にもよく行っていたのですが、最近では断然日本画展に足が向きます。やはり、リクツ抜きで、今の年齢になった私が楽しめるのはこの国の風土や歴史から生まれた日本画ということなのでしょう。
ちょうど、この江戸東京博物館の「大浮世絵展」の最終日である3月2日にNHKニュースで喜多川歌麿の「深川の雪」についての報道がありました。この作品は、歌麿の肉筆画「雪月花・三幅対」(「深川の雪」「品川の月」「吉原の花」)の中のひとつで、明治12年(1879)に栃木市内の寺で三幅が揃って展示されたのを最後に欧米に流出、「深川の雪」は、その後、美術商などの手によって再び日本に戻り昭和23年(1948)に銀座松坂屋で開催された「第 二回浮世絵名作展覧会」に三日間出品され、その後、60年間、行方知れずとなっていたところから「幻の浮世絵」とも呼ばれていたそうです。それが、2012年2月に発見されたという内容の報道でした。
4月13日のNHK「日曜美術館」で「深川の雪」についてとりあげていましたが、それによると「品川の月」は、現在米国のフリーア美術館所蔵。「吉原の花」も、現在は米国のワズワース・アセーニアム所蔵となっているそうです。「深川の雪」は現在、神奈川県箱根市の岡田美術館で一般公開中。6月末まで公開の予定。観たいのはやまやまですが、車でないとアクセスが不便なようですから、ちょっとムリでしょう。残念!
大衆文化の力~浮世絵と流行歌
その、喜多川歌麿の美人画はじめ、風景画、歌舞伎(役者絵)、武者絵、相撲絵、源氏絵、花鳥画、風刺画など多岐にわたるジャンルの総称として「浮世絵」と言われているようです。「浮世」という言葉は、「当世風、今風」という意味合いで使われていますから、私がここで連想したのが、「流行歌」です。
「流行歌」と云えば、舟木さんです。歌謡曲という云い方より「流行歌」の方が情があっていい・・・とおっし
ゃっている舟木さんは、自らを「流行歌手」と自負なさっています。しかも、「浮世まかせ」という素晴らしい
作品もお作りになっているのですから、「大浮世絵展」には、どうしても関心が向かいます(笑)
そんなこんなで、数々の浮世絵たちに再び逢いに1月の江戸東京博物館に続いて名古屋市博物館へも出かけました。
出かけたからには、やっぱり、舟木さんを探したくなります。
浮世絵の題材になっている様々な風景や事象、あるいは歌舞伎や歌舞伎役者さんのポーズなどなどから舟木さんを連想してしまう作品をご紹介してみることにします。遊び心でもってご覧いただけたら嬉しいです。
大浮世絵展 世界から傑作、大集合! ~国際浮世絵学会創立50周年記念
3月11日(火)~5月6日(火) 名古屋市博物館
(以下HPより)
日本が世界に誇る浮世絵は、江戸時代の初期に始まり、歌麿、北斎、広重などのスター絵師の活躍や、強烈なインパクトを放つ写楽、国芳らの登場を経て、小林清親や樋口五葉などの明治、大正の画家に引き継がれました。本展は「国際浮世絵学会」の創立50周年を記念して、浮世絵の名品を日本国内および世界各地45か所から一堂に集める、かつてない規模の展覧会です。誰もが一度は目にしたことのある代表的な作品340点(常時約150点展示)により、浮世絵の全史を紹介します。まさに浮世絵の“教科書”、“国際選抜”となる展覧会です。
大浮世絵展 図録 浮世絵の歴史とその魅力 小林忠(国際浮世絵学会理事長) ~寄稿文より抜粋
浮世絵の普遍性 ~浮世絵という言葉は、開祖菱川師宣が活躍した天和年間(1681-84)の頃に流行し、定着した比較的新しい用語でした。それは井原西鶴の「浮世草子」のように、浮世の絵、すなわち過去の世でもなく、死後のあの世でもない今現在の世の中の、人や社会、流行の風俗などを描いた絵画という意味でした。したがって宗教絵画のように空想的ではなく、水墨画のように理念的でも観念的でもなく、現実を素直に反映したヒューマンで感覚的な表現を本質としたのです。
浮世絵を愛する人がひとしく賛美するように、浮世絵師が描いた一枚の版画、一幅の肉筆画には誰しもがいいようのない懐かしさを感じさせられます。着物に装い、髪を結った昔の人たちが登場する場面でありながら、どこかですでに経験し、見たことがあるような既視感、フランス語で云うデジャ・ビュを覚えることがよくあるのは、そうした人間の本性に訴えかける親しい性質を内包しているからなのでしょう。~中略~人の世の権威や権力のために奉仕する御用絵師は雅な古典の伝統を保守するばかりで、時とともに移り変わる人々の夢や憧れに同調することを拒む傾向がありました。それに反して浮世絵師たちは、刻々と変化する時代の空気を敏感に察知し、流行の風俗を追って、画面に新風を吹き通わせることを競い合ったのです。その結果として浮世絵は、江戸という新興都市の大衆文化の成立とともに勃興し、円熟するにつれて全盛期を迎え、幕末から維新を経過して江戸の記憶が薄れる明治期の後半に終焉するという一個の生命体のように動的でダイナミックな歴史を形成したのでした~
上記の文中にもあるように「刻々と変化する時代の空気を敏感に察知し、流行の風俗を追って・・」江戸の浮世絵師たちが描いた作品は大衆文化として確固たるステイタスを獲得していったのでしょう。昭和の流行歌もまた、音楽というジャンルの中で卑俗とか低俗などという蔑みの視線にさらされつつも、絶大なる大衆の支持を得て日本中の人々の心に根付き、そのエネルギーは野火のように広がっていったのだと思います。しかし、また浮世絵が「一個の生命体のように動的でダイナミック・・」であったがゆえに「江戸の記憶が薄れる明治期の後半に終焉する」という運命を背負っていたのと同じように「昭和の流行歌」も昭和という時代の匂いの記憶が薄れていく過程で、終焉を迎えたのではないかと、小林忠氏の解説を読みながら、「浮世絵」と「昭和の流行歌」とに共通する運命を感じた私です。
喜多川歌麿 当時三美人↓
役者絵 憧れのスターの舞台裏 ~歌舞伎小屋は江戸の庶民たちにとってまたとない憂さの晴らしどころであり、舞台の上の役者は憧れのスターたちでした。当時の江戸歌舞伎は、公式の免許を与えられた三座(中村座、市村座、森田座)の芝居小屋が、毎年陰暦11月に向こう一年間の契約をした役者たちと一座を組み、季節ごとに役者たちの競演が繰り広げられたのでした。目の高い観客によってあれこれと批評され、役者たちの演技は町中の話題となったものでした。そうして熱心なファンにとって、役者絵は観劇の思い出を温め残すブロマイド代わりであり、仲間内や家族の間で役者の演技如何を語り合う恰好の縁(よすが)にもなったことでしょう。実際の舞台を見られない場合には、せめてもの慰めに1枚の版画を買って、贔屓の役者への熱い想いを満たしたのでした。~
江戸期の歌舞伎役者は憧れのスター・・・ここから昭和の青春歌謡のスターである舟木さんを思い起こしても不思議ではないですね。デビュー当時の舟木さんのプロマイドの売れ行きは、おそらく江戸の役者絵の人気にも匹敵するものだったのではないでしょうか。江戸から遠い土地にくらし、実際の舞台を見ることができない地方の人たちも「せめてもの慰めに1枚の版画を買って、贔屓の役者への熱い想いを満たした・・」ということも、私含めて、昭和三十年代の終わり頃には、まだ地方に住む人々にとって東京ははるか遠いところでしたから、舟木さんのレコードや雑誌、プロマイドなどで「熱い想いを満たしていた」のだという意味では、なんら変わるところはありません。当時の芸能雑誌には、よくスターやアイドルの折り込みポスターや、プロマイドのオマケが付いていましたね。
では、思いつくままに、「大浮世絵展」の作品の中から舟木さんを探してみることにします!
(画像は図録から撮影させていただきました)
雪国の女 作詩:芦原みずほ 作曲:井上かつお 伊藤深水 現代美人集 吹雪(1981年 アルバム「どうしているかい」収録)
長いトンネル 夜汽車でぬけて
はるばる逢いに 来た俺は
ままならぬ恋を わびるだけ
待たせた恋を わびるだけ
ああ 抱けば折れそな か細い肩を
男ごころに 男ごころに 抱きながら
映画「雪国」駒子 岸恵子さん
歌川広重 東海道五十三次之内 亀山 雪晴
残雪 高峰雄作:作詩 戸塚三博:作曲
雪国の雪国の恋は はかなく
粉雪に粉雪に うもれて死んだ
結ばれぬ恋と知りつつ 求め合う心と心
ああ さいはての雪の世界か
右衛門七節 作詩:西沢爽 作曲:遠藤実
江戸の娘は おしゃらく雀
一目惚れじゃと またさわぐ
あれは元禄 右衛門七若衆
花の小袖が
アレサ 小袖が
憎いじゃないか
←葛飾北斎 若衆図
歌川国芳 誠忠義士肖像 大星由良之助良雄↓
こがね しろがね 七いろかざり
ゆれて きらめく 花模様
虹のトンネル ゆきかう人の
ああ ちょいと
顔も 顔もあかるい 七夕まつり
歌川広重 名所江戸百景 市中繁栄七夕祭
この愛に溺れたら
こわいけど溺れたい
江の島の 春の夕暮れ
空と海との霞の中へ
お前の言葉が燃えて広がる 歌川広重 江の島図
鳥居清倍 出陣髪すき
敦盛哀歌 作詩:村上元三 作曲:古賀政男
須磨の浜辺に 波白く
よせて返らぬ 十六の
花のいのちは 匂えども
俤あわれ 公達は
無官の大夫 敦盛ぞ
あゝ敦盛ぞ
一心太助江戸っ子祭り 作詩:関沢新一 作曲:山路進一 渓斎英泉 木曾街道続ノ壱 日本橋 雪之曙
恋は深川八幡宮 何も湯島は天神で
腹はちょっぴり数寄屋河岸
銭が内藤新宿で
恐れ入谷の鬼子母神
川瀬巴水 東京十二題 春のあたご山
里の花ふぶき 作詩:橋本比禎子 作曲:古賀政男 縞小袖 里の娘は
気立てのよさに
柳生なりゃこそ 四百年の
昔語りに 花が咲く
ちらりはらりと 谷の春
梅川・忠兵衛 恋染めて風の花 一養亭芳滝 二代目片岡我童の亀屋忠兵衛(右)
月岡芳年 田舎源氏
この役者絵が、一番、舟木さんに似ていると思ったのでご紹介してみます。どうでしょう?
花の生涯~長野主膳ひとひらの夢 松好斎半兵衛 二代目嵐吉三郎の筑紫の権六
吉三郎の権六は大変評判を取り、この年、名古屋、京都と三度演じている。本作は切れ長の涼しい目元、鼻筋、引き締まった口元など、美男子として特に女性に人気のあった吉三郎の風貌を余すところなく伝えている。この歌舞伎は文化五年(1808)の読本「浪華侠夫伝」にも影響を与えていることが指摘されており、松好斎は、吉三郎の似顔で挿絵の権六を描いている。(図録解説より)
二枚目役者の吉三郎の人気を借りて、読本の登場人物のイメージを吉三郎に似せた挿絵で描いてより多くの読者を得ようとしたというのですから、ちょうどアイドル歌手として人気の出た舟木さんを映画に出演させて興行成績を上げようとしたのと同じような発想かな?・・と思います。
松好斎半兵衛は、浪花の浮世絵師で、江戸の浮世絵とは異なった画風です。江戸の浮世絵は漫画風にデフォルメされている感じですが、どちらかといえば当時の関西の浮世絵の方が写実的な印象で、ちょっと意外でした。
新内語り (テレビ・銭形平次) 一筆斎文調 二代目市川高麗蔵の三味線引吉六
一筆斎文調 三代目松本幸四郎の曽我五郎
月形半平太
ラストは、タイトルにも「浮世」と付いていますから、この曲は、ここでは外せません(笑)・・・こんな感じかな?この猫ちゃん、まさ
に「浮世まかせ」・・・っぽいですね。
浮世まかせ 作詩・作曲:上田成幸
花を枕の 盃に
紅のかおりの 舞う午後は
好いた惚れたに 酔うもよし
浮世まかせの 春だもの
とぎれとぎれに 蝉しぐれ
ほろり情に つまづいて
遠い父母 抱くもよし
浮世まかせの 夏の宵
夢をたずねて いそぐ男(ひと)
待ってこがれて やせる女(ひと)
背中合わせの 旅もよし
浮世まかせの 秋深く
どこか恋しい 古傷に
更けて木枯らし 冴える夜は
心ふるえて 泣くもよし
浮世まかせの 冬の中
いいさ そうだよ 誰も皆
浮世まかせの 風車
←歌川広重 名所江戸百景 浅草田圃酉の町詣
洒落ばかりでは、いけないかな?・・・なんて最後はちょっとだけマジメに「大浮世絵展」展示作品について
葛飾応為 夜桜図
夜桜の感興を一首書きつけるのか、燈籠の明かりを頼りに一考する女性の姿である。本図に落款はないが、人物描写から北斎系の作家の作であることは明らかである。光に非常に繊細な感覚を示すこの作者は、北斎の三女応為(生没年不詳)とみて間違いないであろう。父に似て変わり者であったようで、趣味人の商家に嫁いでも、夫の絵が下手だと笑いものにしたので離縁されてしまったという、絵の実力も父親ゆずりで、北斎も美人画は自分よりうまいと褒めているほどである。着物の模様はもとより、燈籠の格子、炎、青白い星と赤味がかった星の描き分け、桜の花弁などなど細部への異常なこだわりと表現力の高さは、間違いなく北斎以上である。
(図録の作品解説より)
1月に江戸東京博物館に「大浮世絵展」を観に行った時の展示物の中で、私がもっとも心惹かれた絵が「夜桜図」でした。この作品を手元に置いてじっくり観たいと思い図録が気にかかりましたが、東京では、あちこち、「さんぽ中」の観覧だったため、分厚い図録は重くてとても持ちかえることができなかったので購入を断念したのですが、やはり今回、名古屋市博物館で、再びこの作品に出逢って他の作品にはない魅力を感じ、欲しかった図録を買って帰りました。重かったぁ・・(笑)
「夜桜図」は、男性絵師が描く女性には見られない女性の深い内面性や、知性、あるいは情念のようなものが、夜の闇に浮かびあがる桜を背景に、見事に描かれていて心動かされます。絵師としてのハード面のテクニックも勿論卓抜したものがありますが、構図そのものの発想が、女性ならではでしょう。上記の図録の解説にもあるように、彼女は、父の北斎に似て、変わり者であり男のような気性の豪快な女傑であったように伝えられていますが、作品を見る限り、その構図の着眼点においても当時の女性の抱えていた状況が垣間見えるように感じられます。
自由気ままにふるまっているように、周囲からは見えていたとしても、女性であるがゆえに抑圧されていた才能や情熱が、この暗い色調の中だからこそ、隠しようもなくほとばしり出ていて、この作品の一番の魅力になっているのだと思います。