わが家の裏庭のガクあじさい
前回のブログは、映画の共演者・浜田光夫さんから見た俳優としての舟木さんについての記事をご紹介しましたが、続いて、映画監督から見た舟木さんの演技、魅力についての記事も紹介してみますね。
同じく「女学生の友」掲載の記事です。前回の記事は1964年5月号、こちらは同じ年の12月号です。前回は、三田明さんと舟木さんをとりあげたものでしたが、こちらは、東映青春路線で本間千代子さんとコンビを組んだ作品に出演した舟木さんと西郷輝彦さんとを対照させて見た東映の監督・鷹森立一さんの一文です。
女学生の友 1964年12月号 表紙 弘田三枝子さん
特別手記 カントクの座から見た 舟木・西郷の演技と魅力 鷹森立一
「君たちがいて僕がいた」で舟木・本間の純愛コンビをヒットさせ、「十七才のこの胸に」で西郷・本間のフレッシュコンビを育てた、東映の映画監督が語る俳優としての舟木・西郷・・・。
手近な夢のある青春ものを
私たちが作る東映青春映画がめざしているねらいは、あくまで、”明るく楽しく、夢のあるもの”ということなのです。さらには「十七才のこの胸に」など、いわゆる東映青春路線をごらんいただけば、そのことがはっきりわかっていただけると思います。
*以下、東映の青春映画の看板女優として抜擢された本間千代子さんについて紹介されている部分の手入力は省いていますので、画像の拡大ボタンをクリックしてご覧になってください。
よし、本間千代子で青春路線をとろう―。東映の最高首脳部でその方針がきまると、つぎはだれを相手役に選ぶかが問題でした。しかし、それは意外に早くきまりました。舟木一夫くんです。
おかげさまで、このコンビは、もののみごとにヒットしました。
そして、つぎは西郷輝彦くん。このコンビのヒットもまず確実でしょう。
ところで、ここまでお読みになると、
「では、東映の青春路線って、歌謡映画のことなんですか?」
こんな疑問をおもちになるかもしれません。私は、ノーとお答えします。
たまたま、私たちのイメージにぴったりの男性スターが、歌手であったというだけで、カメラの前に立ったときは、舟木くんも西郷くんも、歌手ということを、まったく意識しませんでした。それが、この青春映画をヒットさせた原因であったと、私は自負しています。
吉永小百合さんで代表される日活の青春ものともちがうし、高田美和さんたちの大映青春映画ともちがう、独自の東映青春路線はこのようにして作られたのです。
おかげさまで、このコンビは、もののみごとにヒットしました。
そして、つぎは西郷輝彦くん。このコンビのヒットもまず確実でしょう。
ところで、ここまでお読みになると、
「では、東映の青春路線って、歌謡映画のことなんですか?」
こんな疑問をおもちになるかもしれません。私は、ノーとお答えします。
たまたま、私たちのイメージにぴったりの男性スターが、歌手であったというだけで、カメラの前に立ったときは、舟木くんも西郷くんも、歌手ということを、まったく意識しませんでした。それが、この青春映画をヒットさせた原因であったと、私は自負しています。
吉永小百合さんで代表される日活の青春ものともちがうし、高田美和さんたちの大映青春映画ともちがう、独自の東映青春路線はこのようにして作られたのです。
笑いかたまで対照的なふたり
舟木くんや西郷くんが、いったん撮影所に入ると、ぜんぜん歌手ということを意識しなかったと言いましたが、私たちがそのように扱うと同時に、舟木、西郷の両くんともに、けんめいに、”映画俳優”として努力してくれました。
これは、まっさきにほめてよいことです。
いささかの人気のようなものを鼻にかけていわば駆け出しの若者たちが、まるで天下のスター気取りでノシ歩く・・・そんな鼻もちならぬ人が多いと聞いていましたが、少なくともこのふたりはべつでした。両くんともに、キチンと折り目正しい、礼儀を知った若者でした。
もっとも、その表し方は、それぞれ、独特のニュアンスをもっていましたが・・。
いささかの人気のようなものを鼻にかけていわば駆け出しの若者たちが、まるで天下のスター気取りでノシ歩く・・・そんな鼻もちならぬ人が多いと聞いていましたが、少なくともこのふたりはべつでした。両くんともに、キチンと折り目正しい、礼儀を知った若者でした。
もっとも、その表し方は、それぞれ、独特のニュアンスをもっていましたが・・。
舟木くんの場合は、たとえていうと、タタミの上に手をついて、深く頭を下げるという古風なあいさつのしかたです。
いっぽう西郷くんは、ペコンと頭を下げて「よろしくお願いします」そんな感じです。どちらがいいとか悪いとかいうのではありません。ともに誠意と真実のある態度ですが、形は、はっきり異なっていました。そして、そのちがいは、ふたりの性格の相違を同時に物語っていたのです。
いっぽう西郷くんは、ペコンと頭を下げて「よろしくお願いします」そんな感じです。どちらがいいとか悪いとかいうのではありません。ともに誠意と真実のある態度ですが、形は、はっきり異なっていました。そして、そのちがいは、ふたりの性格の相違を同時に物語っていたのです。
たとえば、ひとりでいる時、舟木くんが、ポケットに手を突っ込んで立っている感じなら、西郷くんは腕を組んで立っている感じといえばおわかりになるでしょうか。笑うときなども、舟木くんは、ちょっと上目づかいになって、フフフフ・・と含み笑いしますが、西郷くんは、上を向いてカラカラ笑う。まるで、彼の生まれ故郷、鹿児島名物の桜島、胸にけむりは絶えやせぬ、とでもいった感じなのです。
はじめて舟木くんと会ったのは、浅草の国際劇場で、ワンマン・ショーを開いている時でした。ちょっと気の弱そうな、内気な坊や―そんな第一印象でしたが、さて、クランク・インすると、この内気そうな舟木くんが実に積極的な意見をどしどし出すのです。
「君たちがいて僕がいた」のワン・シーンに、千葉真一くん扮する体操教師が、生徒の前で鉄棒をやって見せるところがありました。それを見ていた生徒の舟木くんが、おどけて、「ぼくたちは、オリンピックに出るわけじゃないんだから、あんなにうまくやる必要はないよな」というようなセリフを言うのです。ところが、舟木くんは、
「このセリフ、ちょっとおかしいんじゃないですか。ぼくがやる高校生の役は、どこか暗い性格だから、こんなことは言わないと思うんですが・・・」
と、自分の思った意見を、はっきりとのべました。彼の疑問は、当然のことです。しかし、そういう暗い性格をすくうために、わざとこんなセリフを入れたんだと私が説明すると、舟木くんは、すぐ納得しました。
とにかく、歌手が余技に映画に出る――そんなつもりがぜんぜんないことが、よくわかってスタッフの連中と感心し合ったことを覚えています。
「君たちがいて僕がいた」のワン・シーンに、千葉真一くん扮する体操教師が、生徒の前で鉄棒をやって見せるところがありました。それを見ていた生徒の舟木くんが、おどけて、「ぼくたちは、オリンピックに出るわけじゃないんだから、あんなにうまくやる必要はないよな」というようなセリフを言うのです。ところが、舟木くんは、
「このセリフ、ちょっとおかしいんじゃないですか。ぼくがやる高校生の役は、どこか暗い性格だから、こんなことは言わないと思うんですが・・・」
と、自分の思った意見を、はっきりとのべました。彼の疑問は、当然のことです。しかし、そういう暗い性格をすくうために、わざとこんなセリフを入れたんだと私が説明すると、舟木くんは、すぐ納得しました。
とにかく、歌手が余技に映画に出る――そんなつもりがぜんぜんないことが、よくわかってスタッフの連中と感心し合ったことを覚えています。
はげしく燃える根性
セリフといえば、参考のために舟木くんの「高校三年生」を見たときは、まだ経験が浅いせいかぎこちないところがありましたが、「君たちがいて・・・」にはいってみると、すっかりセリフが変わっていました。
知らぬまに、彼はセリフの発声を勉強していたのです。
その役者根性には、びっくりすると同時に、この人はモノになる――ひそかに私は確信したものです。
知らぬまに、彼はセリフの発声を勉強していたのです。
その役者根性には、びっくりすると同時に、この人はモノになる――ひそかに私は確信したものです。
「夢のハワイで・・・」で、ハワイ・ロケに出かけたときのことです。天気待ちの合間などよく堺正章(堺駿二の息子)とふざけていましたが、そのとき
「いつか、喜劇をとりたいな。」
と話し合っていました。二枚目役の舟木くんが喜劇に取っ組んでみたいということは彼の演技に対する考え方が、かなりしっかりしたものであることを物語っています。
「いつか、喜劇をとりたいな。」
と話し合っていました。二枚目役の舟木くんが喜劇に取っ組んでみたいということは彼の演技に対する考え方が、かなりしっかりしたものであることを物語っています。
ひとことでいえば、内向性で、”陰”にあたる舟木くんに、そんな一面があるのです。
舟木くんを陰とすれば、西郷くんは陽。まさに対照的なふたりです。
撮影所の所長室で、はじめて会った西郷くんは、最初からこちらのふところへ飛び込んでくるような、いい意味の現代っ子でした。
歌手になりたい一心で、郷里の鹿児島を飛び出してきたそうですが、撮影にはいると、そういう西郷くんの根性が、いろんな面に発揮されました。
撮影所の所長室で、はじめて会った西郷くんは、最初からこちらのふところへ飛び込んでくるような、いい意味の現代っ子でした。
歌手になりたい一心で、郷里の鹿児島を飛び出してきたそうですが、撮影にはいると、そういう西郷くんの根性が、いろんな面に発揮されました。
もちろん、映画の仕事は一年生ですから、セリフなど欠点はたくさんあります。しかし私が、ここはこのように直してほしい、と指示すると、さっそく次には、言われたとおりに直してくる―頭の切り換えの早さと素直さが彼の最高の長所でした。
「ぼくは歌手だけど、映画俳優としても一人まえになりたい。」そんな根性が、西郷くんの胸中に烈々と燃えていたのでは、ないでしょうか。
映画初出演の西郷くんには、とてもムリかと心配した長いセリフがありましたが、それをみごとやってのけたときは、思わずスタッフが拍手を送ったほどです。
もっとも、彼は中学の時、演演劇部にはいっていたといいます。根が好きな道なのでしょう。それだけに、熱心でもあるし、カンもすばらしい。
鍛えられて、さらに本人が努力すれば、りっぱに一人まえの俳優になれる―私は太鼓判を押してもいいと思っています。
ところでなんといっても西郷くんはまだ17歳。撮影の待ち時間にはだれかれとなくつかまえて、愉快そうなおしゃべりに夢中です。
そこへいくと舟木くんは、黙ってひとりですわっている。本間くんなどが話しかけなければ、積極的には冗談話の仲間に加わらない。そんなちがいはありました。
私としては、気軽に冗談を言い合っているうちに、それぞれの俳優の個性をつかんで、それを演技に生かすようにするのですが、その点、舟木くんの場合は、ちょっと個性をつかみにくい感じがしました。ところが、本人は、ちゃんと自分のムードを知っていて、こちらが要求しないうちに、それをちゃんと表現するのです。頭のいい人だと思いました。
化粧などのやり方も、舟木くんと西郷くんは対照的でした。西郷くんは、さっさと化粧をすませますが、舟木くんは念入りにメイキャップして、彼の独特なヘアー・スタイルも、気に入るまでキチンと整える。
そんなふうに、めいめいの性格を表していますが、ともにやる気十分ということでは、公平に120点ずつ進呈してもよいでしょう。
よくお互いを知るために
さて舟木くんから西郷くんへと、本間千代子の相手役(コンビ)が移っていったため、世間ではあれこれとうわさをしているようですが、東映としては、なんの他意もありません。
そのときどきの青春路線に、もっともぴったりした相手役を選んだだけです。したがって、これからも舟木くんと本間千代子のコンビもあるでしょうし、さらにべつのコンビも新しく見つけていくはずです。
それはとにかく、コンビが移り変わる中で、本間千代子は、彼女らしく、やはり気を使っていたようです。
もっとも、何度もいうように、舟木くんと西郷くんは、その性格がまるで対照的にちがいますから、チョコちゃんとの付き合い方はっきりちがいます。
元来が、舟木くんはハニカミ屋で、舟木くんのほうから本間くんに話しかけることはあまりありません。これは男に対しても同じです。ところが西郷くんは、いつもおもしろそうなことを、ペラペラしゃべっていたようです。
本間くんは、「共演する人とは、なるべく話し合って、お互いによく知り合いたいわ。」とよくいっていました。だから、彼女はだれに対しても、積極的に話しかけます。それを、変に誤解されたのかもしれません。
そのときどきの青春路線に、もっともぴったりした相手役を選んだだけです。したがって、これからも舟木くんと本間千代子のコンビもあるでしょうし、さらにべつのコンビも新しく見つけていくはずです。
それはとにかく、コンビが移り変わる中で、本間千代子は、彼女らしく、やはり気を使っていたようです。
もっとも、何度もいうように、舟木くんと西郷くんは、その性格がまるで対照的にちがいますから、チョコちゃんとの付き合い方はっきりちがいます。
元来が、舟木くんはハニカミ屋で、舟木くんのほうから本間くんに話しかけることはあまりありません。これは男に対しても同じです。ところが西郷くんは、いつもおもしろそうなことを、ペラペラしゃべっていたようです。
本間くんは、「共演する人とは、なるべく話し合って、お互いによく知り合いたいわ。」とよくいっていました。だから、彼女はだれに対しても、積極的に話しかけます。それを、変に誤解されたのかもしれません。
舟木、西郷両くんのちがいといえば、たとえば本間くんと手をつなぐシーンがあると、舟木くんはいささかテレて、ちょっとそっぽを向くようなところがありますが、西郷くんは、ぜんぜんテレたりしません。ようするに性格のちがいなのです。
しかし、その性格の相違が「君たちがいて僕がいた」と、「十七才のこの胸に」は、それぞれ独自の味わいの作品にしたのです。
しかし、テレ屋の舟木くんと本間千代子、そしてまるできょうだいみたいな西郷くんと本間くん―対照的とはいえ、この二組は、実にすばらしいコンビだと私は思っています。
「こんなコンビといっしょに、さらに楽しい映画を作りたい。」若い人たちに接した私は、まるで十代の昔に返ったような気持ちで、いま、つぎの作品を考えているのです。
しかし、テレ屋の舟木くんと本間千代子、そしてまるできょうだいみたいな西郷くんと本間くん―対照的とはいえ、この二組は、実にすばらしいコンビだと私は思っています。
「こんなコンビといっしょに、さらに楽しい映画を作りたい。」若い人たちに接した私は、まるで十代の昔に返ったような気持ちで、いま、つぎの作品を考えているのです。
映画「君たちがいて僕がいた」スチール写真