映画「北国の街」ロケ地となった飯山を訪ねる舟旅
上記の日記の続編という感じですが、「近代映画・別冊四月号」(1965年4月号)掲載の記事と照らし合わせて映画「北国の街」の各場面をまとめてみました。私の感想もちょっとばかり…
こちらの動画でも、映画に登場する飯山城址や、城跡から臨む千曲川の風景が出てきますので再度アップさせていただきます。舟木さんの若い歌声と共にお楽しみください。
映画「北国の街」ロケ地・飯山を訪ねる舟旅 Bgm♪初恋の駅♪北国の街 舟木一夫さん
「近代映画・別冊四月号」(1965年4月号)
北国の街 ロケ・セットだより 舟木一夫 (全文から抜粋しています)
僕が学生服姿で歌謡界にデビューし、大映の「高校三年生」で、はじめて映画に出演してから今度の日活の「北国の街」がちょうど十本目。
これに入る直前に大映の「狸穴町〇番地」の話があったけど「北国の街」は僕が完全な主役。歌手としても最近、学生服を脱いで背広や着流しで出演しているし、演技面でもハッスルのチャンスだと思い大映の方は西郷君に僕の役をゆずって日活に出演することにした。
*註(春日局)
おくろ:高田美和 公彦:西郷輝彦(大映1965年6月公開)
狸穴町0番地に住む狸たちは生活費を稼ぐため、狸娘おくろを人間の世界で稼せがせることにした。おくろはクラブのタバコガールとして働いた。ある日、ボーイの公彦が、支配人と喧嘩して店を辞めた。おくろは、公彦に恋をしていた。住処を失った狸の一家は新居を求めて旅立つのだった。
日活出演は「学園広場」「あゝ青春の胸の血は」「仲間たち」「花咲く乙女たち」に次いで五作目。共演の山内賢ちゃんとは四本目。和泉雅子ちゃんとは二本目。監督さん(柳瀬観)とは三本目…というわけで、みなさんとすっかり顔なじみ。
日活の撮影所は若さ溢れた雰囲気なので、数カ月ぶりに来ても昨日のつづきみたいにみんなが気軽に声をかけてくれるので楽しい。
今日は宣伝スチール。賢ちゃん、マコちゃんと三人で雪山をバックにしたセットでポスター用写真の撮影。久しぶりに僕の自前の学生服を引っ張り出してきたけど、鏡の前に立ってみるとなんとなくテレくさい。午後からはプレスコ(主題歌の録音)。僕の新曲でこの作品の中で流す「北国の街」「はやぶさの歌」「雪の降るまちを」と「初恋の駅」の四曲。
いままでは一本の作品で出演日数が三日位のものもあったが、今度はそうはいかない。このため、テレビ十本、ステージ、そのほかを合わせれば数十本の仕事を断ってしまった。でも、この作品は、クランク・インからアップまでわずか十八日間という超特急なみのスケジュール。NGを一回でも出したらあとあとまでひびいてくる…そう思うと自然と全身がひきしまってくる。
この話は手織り縮で有名な新潟県十日町を背景に、来春高校をひかえた高校生の淡い恋と友情を謳いあげた青春ドラマ。僕の役は、機械織の陰にかすんでしまった貧しい手織り職人の息子。賢ちゃんの役は、県会議員の息子でクラスの番長。親分肌で学校一の不良から僕を守ったり、マコちゃんとの仲をとりもってくれたりする無二の親友。いつもの僕の役と賢ちゃんの役が今回は入れ替わったわけだ。
プレスコのあと賢ちゃんとマコちゃん、柳瀬監督と打ち合わせ。監督さんから「今度は舟木君を歌手の特別出演というのではなく、一人の俳優として扱うつもりだから、しっかりやってくれよネ」といわれ、「ヨシ!やってやるぞ」と思わず武者ぶるい。同時に先輩である賢ちゃんとマコちゃんに「どうぞ、よろしく」と挨拶。
賢ちゃんは「舟木君が二枚目の秀才なら、僕は多少三枚目でやるか」とニッコリ。柳瀬監督「これから本を大々的に書き直すからセリフは全部現場で覚えるようになると思う。君たちは若くて柔軟性があるから安心だけど…」と言われ、三人で顔を見合わせて「ギョッ!」
いよいよ、今日からクランク・イン。今日から三日間、教室や学校のセットをやって長野県飯山市のロケだ。
セットは葉山良二さん扮する数学の先生のむずかしい講義。僕は最近知り合った女子高校生のマコちゃんのことを考えていて、質問に答えられずしどろもどろ。次に仲間とペチャクチャしゃべっていた賢ちゃんが指され「小島(僕の役)にできなくて僕にできるわけないっすよ先生」とやってセットは大爆笑。XとかYとか昔なつかしい?記号が黒板にいっぱい書いてあるのみて思わずぞっとした。あとで賢ちゃんと学生服を見比べながら「やっぱり高校生時代というのはよかったね」とお互いに高校生活の想い出話に花を咲かせた。
僕はいつも、テレビやステージや雑誌の仕事で夜おそくまでそれこそ食事をするひまもないくらい働いているので、早起きはどうも苦手だ。映画の仕事は朝が早いので、はじめの二、三日はすごく辛い。でもこんどの場合は日活の仕事一本にしぼったので夜は早く寝られるし撮影所が空気の良い多摩川べりなので、ひさしぶりにうまい空気を胸いっぱい吸い込んで大健康スタイル。
みんなが長野ロケに出かけた日、僕は雑誌の仕事で妙高スキー場に車で行った。たった半日だったけど、ひさしぶりにバカンスを楽しんだ。スキーは得意じゃないけど、一応は滑れる程度。リフトで頂上近くまであがり、仕事が終わってから一人でスロープを滑り、ふもとの方まで快調に進んでいった。白銀の世界。ときどき視界をさえぎる人やブッシュがまたたく間に後ろにすっ飛んでいく。ほほに当たる風が氷のように冷たいけど実に気持ちがいい。ところがプロダクションの人や雑誌記者がほとんど滑れないと思っていた僕がいないの気づき、あわててあちこち捜しまわったらしい。「もしかして足でも折っていたら大変だ」「いや、きっと頭を雪の中に突っ込んで起き上がれないで足をバタバタやってるんじゃないか」など、好き勝手な想像をしながら捜すこと約1時間。そのうち本当に心配してスキー・パトロールに捜査をたのんだというから気の毒なことをしてしまった。
下の方でさんざん楽しみ、疲れたのでリフトでみんなのところへ帰ってきたわけだけど、そのときのみんなの呆然とした顔ったらなかった。おかしいやら申し訳ないやら…。
妙高からまた車でロケ隊の宿泊地湯田中温泉に着いたのは夕方の四時頃。宿に着いたら賢ちゃんがやはり車で来ていて手持ちぶさたにしていた。ロケ隊が着いたのは六時頃。夕食後、監督さんの部屋にいき、賢ちゃん、マコちゃんと四人でリハーサル。書き直された台本は、なるほど大まかな動きだけしか書いてなく、セリフは全部ワラ半紙にペンで走り書きしたものばかり。このロケは九日間だが、主な芝居はほとんどロケでこなしてしまうので、毎日が緊張の連続だ。明日からは、連日七時に起きて出発。ということで十時頃にリハーサルをやめ、風呂に入って早く寝ることにした。
長野ロケだというので膝まで雪にうずまる覚悟で来てみたら、意外に雪が少ないのにビックリ。それでも、僕たちがついた前日に二十センチほど雪が降ったそうで湯田中から車で約四十分の飯山は新雪に覆われて版画のような美しさだ。
*地図の下のところのグリーンが少し見えてる部分が飯山城址
飯山城の城址がある城山公園で僕は初めてアクション・シーンの撮影をした。
ここは学校の裏山という設定で、学校一の番長根岸一正君にいんねんをつけられて子分たちに連れて来られるくだり。このグループは、以前、日活の「非行少年」に出演した主役の五人で、彼らの不良ぶりは堂に入ったもの。特に根岸君の芝居なんかは真に迫っていて芝居とわかっていても思わずガタガタ震えだしそうなドスのきいたものだ。
ここは学校の裏山という設定で、学校一の番長根岸一正君にいんねんをつけられて子分たちに連れて来られるくだり。このグループは、以前、日活の「非行少年」に出演した主役の五人で、彼らの不良ぶりは堂に入ったもの。特に根岸君の芝居なんかは真に迫っていて芝居とわかっていても思わずガタガタ震えだしそうなドスのきいたものだ。
そこにあらわれるのがクラスの番長山内賢ちゃん。「クラスのことは全部このオレが仕切ってるんだ。喧嘩ならいつでも相手になってやるぜ!」と大見えをきってから彼らを追っ払ったあと、僕がマコちゃんのことでいいがかりをつけられたということをなかなか賢ちゃんに話さなかったことから彼が怒っていきなり撲りかかり、痛いほほをさすりながらこんどは僕がモウレツな反撃を喰わすというシーン。
秀才という設定だけでもテレてしまうのに番長と互角に撲り合える腕ももっているときたらもうテレテレだ。
これが機会で賢ちゃんと僕の友情が生まれるというここは大事なシーンだ。真っ白い雪の中に腰をついているうちはよかったが別のシーンで根岸君たちに袋叩きに合うところでは、本当に雪の中に顔をうずめなければならずさんざんの目。
これが機会で賢ちゃんと僕の友情が生まれるというここは大事なシーンだ。真っ白い雪の中に腰をついているうちはよかったが別のシーンで根岸君たちに袋叩きに合うところでは、本当に雪の中に顔をうずめなければならずさんざんの目。
一見、秀才肌のひよわな学生にみえながら鋭いパンチの持ち主という意外性が狙いらしいが、賢ちゃんや根岸君を相手に初めてのアクション・シーンをやったら本当に相手を撲ってしまいそうで思いきり腕が伸びきらない。賢ちゃんが「本気でやってよ。僕はうまく撲られたように見せるから」と励ましてくれたので、やっとのびのびと腕をことがふるうできた。
昼からは場所が変わって、スキーで名高い飯山北高校の校庭。その日はちょうど授業をやっていたが、僕たちが撮影に来ていることを知ってみんな落ち着かない様子。案の定、終業ベルが鳴ったとたんに各教室から生徒さんたちが飛び出してきてカメラの周りはたちまち黒山の人。
*この写真は長野ホクト文化ホールで知り合った十日町在住の方が「宝物」と言って見せてくださったロケ中のナマ写真です。どこに行ってもロケ隊は黒山の人に囲まれたということなんでしょうね。
この話では、みんな列車通学で隣の町の学校に通っていることになっており、僕とマコちゃんが知り合うのも汽車の中。というわけで駅や列車内のシーンがずいぶんあるが、この汽車が面白い。この辺のローカル線も、いまではすっかりディーゼル・カーが主流を占めていて監督が狙っていた昔ながらの蒸気機関車つきの列車は朝一本と午後一本の二本だけ。それも、半分が貨車になった客車一輌と普通の客車二輌の計四輌編成。これが広大な雪野原を黒煙をモクモク吐きながら走るのだからたしかに詩情豊かだけど、僕たちにとってはぶっつけ本番でNGは絶対に出せないとくるからキビシい。それでも駅長さんや関係者の方の協力で停車時間を多少変更してもらって撮影は快調に進んだ。
雪景色で印象的だったのは千曲川の土堤とその上流にあるダムの夕景。
ほとんどむき出しになった土堤の道と雪どけで増水した千曲川、それにまだ真っ白い雪化粧をした遠くの山々。この山が四方をとりまいているので、ちょうどシネラマでも見ているような感じだ。この土堤の道をマコちゃんと僕が後から夕陽を浴びて長い影をふむようにして歩いていく姿はちょっとイカしていた。
ほとんどむき出しになった土堤の道と雪どけで増水した千曲川、それにまだ真っ白い雪化粧をした遠くの山々。この山が四方をとりまいているので、ちょうどシネラマでも見ているような感じだ。この土堤の道をマコちゃんと僕が後から夕陽を浴びて長い影をふむようにして歩いていく姿はちょっとイカしていた。
こんどのラッシュを見てつくづく思ったことは、目の芝居がいかにむづかしいかということと、僕はあくまでも歌手なので、感情を顔だけで表しがちだったのが、映画ではからだ全体で表現しなければならないこと。
この体験を生かしてこんどは、もっとすばらしい一歩前進した作品を作りたいと思っている。
この写真は撮影中のものですね、舟木さんこらえきれず笑ってますから完全にNG!(笑)↓
この作品では、舟木さんの親友・藤田を演じる山内賢さんの好演が光ります。中学生の頃には、主人公の海彦と雪子の恋の行方のみに注目して観ていたので、藤田という少年の存在は、「いい人」という程度にしかとらえてなかったんだと思います。
ですからこれも、大人になってからDVDを観た時に初めて気づいたのですが、賢さん演じる藤田という同級生の魅力です。海彦と同じクラスの「番長」で、クラスメートを舎弟と呼んでいきがっています。12月生まれの賢さんは舟木さんのちょうど一才年上。撮影当時は21才だと思います。ちょっとワルぶった高校生を演じるにあたって十代の少年の気持ちをアレコレ慮って役作りをされたんだろうなと感じました。
地元県会議員を父にもつこの少年は、ごく健全に成長しているのでしょう、おそらく父の表向きの顔と家族にみせる顔のギャップや、地位のある父の威光で自分を特別扱いする大人たちへの不信感など複雑な想いの中でこの年頃の少年らしい反抗的な行動もするのですが、映像には藤田の純粋な心根が痛いほど伝わってくる賢さんの眼の演技です。
そして、この役どころは俳優さんにとって最高の「もうけ役」なんだと感じました。最初から最後までとにかくカッコイイ藤田クンなのです。自分自身も心をよせている雪子なのに、互いに好意を寄せあっている海彦と雪子の気持ちを知ってしまうと、俄然、二人の味方になって二人の恋の行方を見守ってやろうとする男気のある、優しい少年です。教師に対する態度も、分をわきまえていて、無礼ではありませんし、大人の立場もしっかり理解できる分別があります。理不尽なことには真正面から立ち向かう正義感は、今の若者が、失いつつある若者ならではの美点です。
舟木さんの「ロケ・セットだより」にも記されていますが、「北国の街」では、秀才で二枚目の舟木さん演じる海彦に対して、ちょっとワルで三枚目の表情も見せる藤田という役どころで助演にまわり見事なバイプレーヤーぶりを見せています。
「学園広場」「あゝ青春の胸の血は」「花咲く乙女」たちでは主演女優は、それぞれ松原智恵子さん、和泉雅子さん、西尾美枝子さん。男優としては賢さんがいずれも主演をつとめています。舟木さんは、この三作では、助演というよりまだ「特別出演」というポジションでした。「北国の街」で、初めて舟木さんが主演となり賢さんが脇にまわられたワケですが、さすがプロの俳優らしいご自身の位置の把握と主役である舟木さんとの距離感のとり方だなぁ…と、あらためてDVDを観て痛感しました。しかも、助演俳優としての自負と藤田という存在をご自身のキャラクターを存分に生かして大きく膨らませ、観る側の胸にズキンとくるようなインパクトを残します。
原作は富島健夫「雪の記憶」ですが、原作からかなり離れた内容になっているのも、舟木さんと賢さんのキャラクターと「日活青春映画」路線のイメージによるものでしょう。また、私たち世代には、テレビで人気脚本家として周知の倉本聰氏が脚本を担当なさったというのも後に知って驚きましたが、とてもよくできた脚本だったのでなるほどと得心がいきました。また、柳瀬監督が現場でセリフをあてこんでいく方法をとっているとのことで、予め用意された脚本に固執せずに撮影しながら登場人物の醸し出す雰囲気を大切にして作品づくりをしていくスタイルが成功したという良い結果を生み出したのでしょう。
日活撮影所のセットに見学?に詰めかけたファンに囲まれて
挿入歌「はやぶさの歌」は、劇中で海彦が書いた詩に藤田君が曲をつけた設定で、最初はギターを抱えた山内賢さんが歌い始め、途中から舟木さんの歌声になっていきます。
ラストシーン