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Channel: 舟木一夫の世界~れんげ草の咲くさんぽ径~
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「天一坊秘聞~八百万石に挑む男」舟木さん演じる山内伊賀之亮とは~「徳川太平記 吉宗と天一坊」その5

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この連載も、今回と、あと一回で終わらせる予定です。
 
「徳川太平記 吉宗と天一坊」、この小説は、副題にもあるように「吉宗と天一坊」という縁薄い父と子の悲
劇を主軸に据え、天下太平の元禄の世に起こった実話や、この時代に様々な場面で活躍し、今にその名を残している歴史上の人物などを縦横にからめて、読み物としての技巧を凝らした傑作ですが、本来の私の興味の的は、山内伊賀之亮の人物像なのです(笑)
 
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9月の新橋演舞場で舟木さんが演じられる、山内伊賀之亮という人物のイメージを、すこしばかり予習しておきたいというのが本来の目的で、「徳川太平記 吉宗と天一坊」を読み進んできているので、「天一坊事件」の展開そのものについては、9月の舞台を拝見する時のお楽しみとして、このブログでは触れず、その一歩手前で、この連載を完結させたいと思います。
 
今回は、まず、ここで、登場する、山内伊賀之亮の名前についてのおさらいです

「伊賀之亮」・・・舟木さんが舞台で演じる「八百万石に挑む男」では、この漢字を使っているのですが、このブログの連載のその1以降で、その都度、説明してきたように、「徳川太平記」では、とってもややこしい名前になっています(笑)
 
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一、先ず、「初代の山内伊賀之介
この男は、性根の悪い悪党として、上巻で、天一坊事件の発端を企む人物として登場します。やることなすこと、すべて悪意に満ちた残忍な男です。最終的には、「天一坊事件」には、関わることなく、小説の途中「遺言試合」で、斃されます。
 
二、後の伊賀亮となる神矢主膳の登場
「徳川太平記」における「天一坊事件」の実際の後見人となるのが、元の姓名が、神矢主膳という浪人です。主膳は、この小説では、両親の複雑な関係に心を痛める多感な15歳の少年として、初めて登場します。余命いくばくもない父の願いを叶えるために、15歳で家を出て、兵法者としての修業の旅に出ます。
先ず最初に、主膳は、天一坊と出逢います。そして、その後、吉宗との運命的な出逢いがあり、さらに「初代の山内伊賀之介」と出逢う事になります。このキイパーソンとも言える三人との出逢いが神矢主膳の運命を変えることになります。
 
 
神矢主膳が、初代伊賀之介の名を一文字変えて伊賀之助となる
大坂の町で、初代の伊賀之介は、鴻池善右衛門に、神矢主膳は、淀屋辰五郎に、と、当時の大坂で知らない者はいないという豪商に、それぞれ、剣の腕を買われて雇われ、一騎討ちをするという運命になります。「遺言試合」の項で、そのタイトル通り、伊賀之介と主膳は、勝った者が、負けた者の姓名を継ぐという約束をします。結果は、主膳が生き残り、山内伊賀之介の姓名を継ぐことになります。この時、主膳は、名前の一文字を変えて、「山内伊賀之助」と名のることにします。
 
瑞龍寺の鉄仙の勧めにより、伊賀之助から伊賀亮と改名する。
「初代の伊賀之介」が開いていた道場に、山伏寺から逃れてきた天一坊がやってきます。自分を吉宗の落胤と教え、元服のあかつきには、父に会わせてやると約束してくれた伊賀之介が死んだことを知り、天一坊は、その名を継いだ主膳に、亡き伊賀之介の約束通り、父との面会をさせるのが名を継いだ主膳の責任だと詰め寄ります。主膳は、天一坊の言っていることの真偽を確かめるために、瑞龍寺の住職である老僧・鉄仙のところで天一坊の人相をみてもらいます。鉄仙は、全てを見透したのか、「伊賀之助」という字では、吉宗との対面が成功することはない、「伊賀亮」と改めよと言います。実は、この改名は、もっとも、事を成し得なくする名前であることを、主膳は知る由もありませんでした。
「徳川太平記」では、この項以降、神矢主膳は、「山内伊賀亮」と表記されています。
 
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では、その4のつづきの抜き書きを続けます。
「道場異変」以降の抜き書き(春日局まとめ)

イメージ 4・道場異変

主膳と伊賀之介の試合が繰り広げられている頃、淀屋辰五郎と春菜は辰五郎の茅屋で対座していた。春菜は辰五郎から主膳が単身、鴻池屋とえぞ屋との商売争いの決着をつける代理人として阿波屋に送られたことを初めて聞かされていた。そして主膳が多勢にとりかこまれ修羅場になっているに違いないと取り乱して辰五郎を責めていた。
「もどった」主膳の声を聞くと春菜は小さな叫び声をあげて走って障子を開けた。 「おかえりなさいませ」
悦びにはずんだ声音で迎える春菜に主膳は…知っていたのか、という表情をかえしてから上がってきた。
「お勝ちなさいましたか」淀辰がにこにこして見上げると主膳はにやりとしてみせて 「あぶなかった。命びろいをした」とこたえて急に疲労がでたようにどたりと仰臥した。「おめでとうございました。春菜様に打ち明けたところひどうご立腹なさいましてな。…いや、ほっといたしました。」
「わしは、今日から姓名を変えることになった。山内伊賀之助…それが今日からわしの姓名だ」主膳は伊賀之介を一字変えて伊賀之助として名のることにしたのであった。
 
山伏寺から奔走した天一坊が伊賀之介亡き後の山内道場に乗り込み門弟たちをことごとく打ち負かし道場の主になることを申し渡しているところに主膳が現れた。天一坊と主膳との二度目の出会いである。
 
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「それは、いささか思い上がりではないかな、小阿闍利殿」
「なんだ、おのれか!」
競い馬当日、清見川原に程近い松林の中の小さな社にある井戸の端で水垢離をとっている時に出会った浪人者であった。
「おのれなんぞに容喙はされぬ。立ち去れ!」
「それが立ち去れぬ理由がある」
「なに!おのれは、当道場に縁でもあるというのか?」
「そうだ。お主とはどうやら前世からの宿縁でもありそうだな」と言った。
「宿縁などはない!おのれ、道場破りだな?」
「ちがうな」浪人者はかぶりを振って「山内伊賀之介殿の霊を悔やみに参った」と答えた。
「それならば遺骸に祈って、さっさと立ち去れ」
「そうは参らぬな」
「なに!」
「お主が当道場のあるじになるというならば、いささか文句をつける必要がある」
「ほざいたな!よし、あらためて勝負してくれる」
「お主に勝ち目はない」
「黙れっ!それがしの小太刀がいかなるものか、とくと見届けて、あの世へ土産にしろ!」
「この前も、申したぞ、若いの…。殺気をむき出せば、出すほど、おのが身を危ういものにする。この道場の門弟衆を一人や二人打ち倒したぐらいでうぬぼれてはなるまいな」
「おのれ、一流兵法者面をして、何者だと申す?名のれ!」
「山内伊賀之助」
「なにっ?!」天一坊は再び、目をひきむいた。門弟一同も、あっけにとられた。
「むこうの寝所に横たわっている仏から、その名をひき継いだのだ」
「なんだと?」
「昨日、山内伊賀之介殿と立ち合うまでは神矢主膳と申したが、試合をするにあたって、勝った方が対手がたの名を継ぐと遺言を交わしたのでな、今日よりは、山内伊賀之助と名のる」
「小父上を斬ったのはおのれか!」
「後に遺恨をのこさぬ試合であった。そのことも、門弟衆につたえたく、参上した。」
「黙れっ!小父上は、わが養父ともいえる御仁であったのだぞ…おのれが、くそ!仇を討ってくれる!」
猛りたった天一坊へ山内伊賀之助となった神矢主膳は極めて冷静な一瞥をくれておいて門弟一同を見渡した。
 
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「この小阿闍利殿の助太刀をしたければ遠慮は無用。間違いなくわしがお手前がたの師のかたきだ」
しかしどの顔も一言も発せず、しんとして、息をのんでいるばかりであった。
「腰抜け共め!それがしが、一人で仇を討ってくれる!」天一坊は叫び、二刀を高くかかげて切っ先を交差させた。「抜けっ!素浪人!」
伊賀之助はべつに構えも抜こうともせず、天一坊を正視したが、「ふむ!」と、ひくく、うなった。あなどり難い構えと看たのである。
しかし、伊賀之助は差料を抜かずして跳躍し、一蹴で天一坊は子猫のごとく床板に仰向けにたたきつけられた。天一坊はあまりの悔しさに起き上がることさえできなかった。
伊賀之助は上座に歩み寄るとそこに置かれた短剣と書付けを視た。書付けを拾い上げ、伊賀之助は眉宇をひそめた。
 
おん身懐妊の由、われら血筋に相違是なし
元禄十四年二月六日新之助頼方
多藻殿へ
後日証拠の為、我ら身に添え大切に致し候短刀、相添え遣わし置く者也、依而如件(よってくだんのごとし)

「成程…」
伊賀之助は微笑した。
「これは、わしにとって、奇縁というべきだな」
他人には判らぬ独語をもらした。
 
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(先日、神矢主膳であったおのれは、紀州吉宗の行列へ向かって、斬り込みを仕掛けている。そして、吉宗の度量の前に、生涯ぬぐい得ぬ屈辱をあじわわされたのであった。)
 
伊賀之助は師範代らに山内道場を閉鎖することへの異義なきことを確めた上、看板を外させ焼却させた。門弟一同の姿が消えるとあらためて天一坊を正視し、
「お主、紀州候の落胤たることを忘れるわけにはいかぬか?」とすすめた。
「おのが素性をかくす必要はない!そこもとは山内伊賀之介という姓名を継いだからには、その遺志も継ぐべきだろう。小父上は、それがしが元服のあかつきには、紀州吉宗公と父子対面をさせると約束されていた。そこもとは、亡き小父上に代わって、それがしを父上に対面させる義務ができたのだぞ!」
天一坊は、伊賀之助が忠告しようとすることを、逆に封じて、つめ寄ってみせた。
 
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・寒山拾得
 
伊賀之助は天一坊をともない当時、他宗を圧して庶民の間にゆきわたっていた禅宗黄檗派の本山である難波元町の瑞龍寺に赴いた。

伊賀之助は丹波山中に籠る前に一年ほどこの寺に居候していた。住職の老僧鉄仙はこの兵法者が、紀州吉宗を襲って、斬る使命をおびていたことも知っていた。その使命を打ち明けられた時、鉄仙は兵法者をじっと正視していたが、
「斬れんの」と断定したことだった。
「修業つかまつります」
「修業しても、斬れんの」
この度の吉宗襲撃のことは噂になっていないので鉄仙か知っているとは思えない。しかし、鉄仙はすでに看破してしている口ぶりである。伊賀之助はそのことは何も報告せずに
「実はお願いがあって罷り出ました」
「なんであろうか」
「ともないましたこの小阿闍利の人相を観ていただきたく存じます」
伊賀之助は初めて事の子細をつつみ隠さず語った。
 
この時、鉄仙はこの先起こるであろう波乱を全て見通したかのように伊賀之助の言葉に応えて、こう言った。
「お許はなりゆきで、改名したというが…山内伊賀之助というのは、いかんの」
「不吉の姓名だと申されるのですか?」
「山内伊賀之助では成功はおぼつかぬの」
「しかし、試合の前に交わした遺言です。違約いたすわけには参りませぬ」
「では、その伊賀之助の助の字を変えるがよかろう
鉄仙は、火鉢から火箸をとると灰に、伊賀亮 と書いてみせた。

 
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「山内伊賀亮ならば、成功すると申されますか?」
「まずの…」鉄仙は微笑した。
天一坊が不快そうに
「御坊はそれがしには、落胤面だとしか言うてはくれぬのか?」
と言った。
「それで十分ではあるまいかの、偽物面じゃと言われたら、おこるがよかろうが、落胤面とみとめたぞ。ほか。ほかになにを申しきかせることがある?成功させるために伊賀之助のすけの字も変えてつかわした」
二人が去ると弟子の宗悟が入って来て
「大徳様はどういうご存念であのご浪人衆に改名をさせておやりになりましたな?」
「之助の二字よりも、亮の一字の方がさらに一層不吉だからの」
「成程…」
「山内伊賀亮では、とうてい成功はおぼつかぬの。それで、よいのだ」
 
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この後に、鉄仙と大岡忠相との深いつながりが、記されて、天一坊と伊賀亮の不吉な命運の伏線となっています。
 
・大岡忠相
忠相は忠助といった少年の頃から、鉄仙に師事し、禅を学んでいたのである。
 

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