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Channel: 舟木一夫の世界~れんげ草の咲くさんぽ径~
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新橋演舞場・特別公演 第一部「天一坊秘聞~八百万石に挑む男」その3(完結)

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    舟木一夫特別公演~新橋演舞場 2014年9月2日~9月24日
 
第一部「天一坊秘聞~八百万石に挑む男」その2 からのつづきです
 
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さて、いよいよ物語の山場です。舟木・伊賀之亮のセリフはピンク文字
 
 
第七場 大岡越前の役宅(数日後、夜)
 
越前が妻と娘を相手に、ゆったりと夕餉の膳に向かっています。酒の肴を、小さな娘が喜ぶと言って、食べさせるという子煩悩な越前の一面を印象づけます。妻のりつとの他愛ない談笑に一家団欒の暖かな空気が流れて客席もほっと一息つくような、嬉しい場面です。親子の情や、家庭の団欒などと無縁で育ってきた天一坊の身の上との対比と、越前の人としての情愛を示して、第八場への流れをつくるという意味でも大切な場面となることが伝わってきます。
 
このあたたかな越前一家の役宅に、ひそかに伊賀之亮が訪れます。第六場で、天一坊が将軍吉宗の実の子であると知った伊賀之亮でしたが、己の夢に向かって突き進んできた道をもはや「引き返すことはできぬ」という想い、しかし、年若い天一坊を道連れにはできないという想い、自分の心を引き裂かれるような二つの想いを、伊賀之亮らしい決断と覚悟をもって越前のもとを訪れたのです。この時の越前は藍色系の着流し、伊賀之亮は、グレーの着物、羽織袴という少しカジュアルなイメージです。
 
迎え入れる越前は、既に吉宗をはじめ老中面々の総意、つまり徳川幕府の、天一坊への処置は既に決定しているのです。それを胸に収めて、伊賀之亮と静かに向き合い、そばにあった手まりを伊賀之亮の方に転がします。そして、その手まりを手に取る伊賀之亮と吉宗のふるさとである紀州のよもやま話をするのです。
 
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この場面では、越前の娘が先ほどまで遊んでいた手まりが、小道具として非常に上手く使われているのに感心しました。そして、伊賀之亮の膳を運んできた越前の妻りつが、伊賀之亮から手まりを受け取り、紀州の手まり唄「道成寺」を唄いはじめます。骨太の男たちのドラマの中にあって、長谷川稀世さんの、美しい唄声と「お気の毒に、下々のことなれば、すぐにでも父親のもとにとんでいかれましょうものを・・」という天一坊の身に心を痛めるセリフが、とても印象に残るステキな場面です。女性の私としては、この場面を創って下さった脚本の斎藤氏、演出の金子氏に、心からのブラボー!です。
 
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トントンお寺の 道成寺(どうじょうじ)
釣鐘(つりがね)下(お)ろいて 身を隠し
安珍清姫(あんちん きよひめ) 蛇(じゃ)に化けて
七重(ななよ)に巻かれて ひとまわり ひとまわり
 
トントンお寺の 道成寺
六十二段の階(きざはし)を
上がり詰めたら仁王(におう)さん
左は唐銅(からかね)手水鉢(ちょうずばち) 手水鉢
 
 
りつが部屋を去ると、越前が「なぜ、あれほど想い想われていた安珍と清姫の結末はなぜあのように不幸になったのか・・」吉宗と天一坊親子の想いになぞらえてのセリフでしょう。
 
伊賀之亮「鐘に入りたる僧の生きて出られる術なしと!・・・逃るる道は!?・・・もはや事は敗れてござるか・・事敗れしこの上は・・・ただ伊賀之亮の一念は、鐘に入りし、我が宝、何とぞ、天一坊の命、お救い下され!天一坊様は、吉宗様、いや徳太郎様の御子に違いないのでござりまする。」ここで伊賀之亮は己の刀を「金打」して「天地神明に掛けて」と越前に、己の言葉に嘘はないことを示します。これが、めちゃくちゃカッコイイんです。何度も、見たいシーンです。さらに伊賀之亮「偽者であってほしかったぁ・・・」と苦しげな表情を見せます。そして、越前も伊賀之亮の言葉を受けて「その想いは、それがしも同様にござる・・」伊賀之亮「偽者であればこそ、この天下の大芝居、意味があったのでござった・・これにて、それがしの覚悟も決まり申した。だが、越前殿、何とぞ、何とぞ・・・」深く頭を下げて全身全霊で天一坊の助命を願う伊賀之亮に、盃を差し出す越前。酒を酌み交わす二人の姿は、まさに「男と男」の心の通い合いという感動的な場面です。ある意味では、この場面がクライマックスと言ってもいいのではないでしょうか。
 
伊賀之亮「次に会うのは戦場(いくさば)にござるのう・・」
大岡越前「のぞむところ!」
伊賀之亮「男子の本懐にござりまする!」
 
~暗転~

第八場 御浜御殿のお狩場(翌々日、冬の朝)
 
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翌々日の朝、御浜御殿にあるお狩場。のどかな風景のお狩場に身を置いていても、どこか吉宗の表情は晴れない様子。そこに、越前が現れます。そして、越前が、一人の鷹匠を招きます。手拭いで顔を隠すようにした若者は天一坊。伊賀之亮との約束通り、越前が天一坊の命を救うために計らったのは、国中のみならず、唐・天竺にまでも自由に行ける通行手形を天一坊に与えることでした。
親子の対面を果たしながらも、それは束の間、別れを惜しみ、その場を去り兼ねる天一坊に、早く行け!と促す越前、ただ黙って見送る吉宗。
 
天一坊が花道を去って行きます。その姿を見送って越前に礼を言う吉宗に「今、ひとり、お忘れなきよう願いたき御人がございます。『徳太郎様に我が子を殺すようなまねをさせられようか・・』と伊賀之亮殿がこう申されておりました」と伝えます。

政ごとにかまけて、わしは人の道を忘れておったのだなぁ・・と自責の念にかられる吉宗でした。伊賀之亮
と越前の厚い情けに涙する、人として、親としての吉宗の姿を、田村亮さんが将軍の品格をもって好演なさっています。
 
第七場の伊賀之亮、越前、越前の妻・りつの三者の場面で、それぞれが肉親の情、親子の絆の強さ、深さを、十二分に印象付け、殊に伊賀之亮は天一坊との短い関わりの中で、生まれながらに父と引き裂かれて育った天一坊、また、我が子を手放さなければならなかった徳太郎のそれぞれの想いに心を添わせるようになっていったのでしょう。我が身を賭して、天一坊の一命を守りきろうとしたその心中は、兄とも、父ともいうべき情愛に満ちたものになっていったのだと感じました。
 
舟木・伊賀之亮は、第九場の八つ山御殿の屋根の上で、大立ち回りの末に自裁して果てますが、この場面は、むしろ「夢、志に向かって駆け抜けて、見事に散った」という伊賀之助の本望を感じ、悲壮感は一切感じませんでしたが、むしろ、先の七場では、私は一番泣けました。やっぱり舟木さんは「情の人」だなぁ・・と。
 
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第九場 八つ山御殿、大屋根(その夜)
 
舞台上には、御用提灯の明かりのみが見えています。そして、花道からは、御用提灯をかざした多くの捕手が、なだれを打つように、駆けていきます。舞台が明るくなり、八つ山御殿の大屋根が舞台奥から前方にせり出してきます。大屋根の向こうから現れる伊賀之亮。返り血を浴びた、白装束に身を包んでいます。顔面も血のりだらけの壮絶な姿の舟木・伊賀之亮に、客席の反応は色々・・・あぁ、大好きな舟木さんがぁ!・・・という人は、多いでしょうね。
 
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その伊賀之亮の悠然たるセリフ「おるわ、おるわ、この伊賀之亮一人に、なんとまぁ、贅沢な提灯の波よ!闇に映えてまことに見事なる地獄への道しるべか!」舟木さん、このセリフ、とっても気持ちよさそうにおっしゃってるなぁ・・と私は呑気なことを考えながら拝見するタイプ(笑)
歌舞伎の様式に倣ったような、比較的ゆったりとした立ち回りで、美しく見せてくださいますから目をそむ
けたくなるようなリアル感はほとんど感じませんでした。
「天一、生きろ、我らが分まで生きてくれ!・・・楽しかったぞ、天一坊。人は一代、己の志のままに生きるは、本懐!山内伊賀之亮、夢に賭け、夢に生き、夢に砕けて御座候!」
 
真赤なライトに照らし出される伊賀之亮、白装束も顔も血みどろですが、とっても綺麗です。「御用だ!御
用だ!」捕り方を集める呼子の笛がけたたましく鳴り響き、伊賀之亮の「夢・志」を現すテーマ曲が流れま
す。腹一文字に掻き切って、なお、両手を高々と掲げ、歌舞伎で言うところの見得を切るような形を見せる
舟木・伊賀之亮、まるで弁慶の大往生を想わせる最期です。舟木さんファンならどなたも気になっていた、
ラストシーンは、金子良次氏の演出で、舞台時代劇ならではの様式美で幕を閉じるスタイルとなっています。悲壮感は、さほど感じられないと思いますのでご安心くださいね!(笑)
 

八つ山御殿に関して・・・  
実際に眼下に江戸湊を見下ろす高台に江戸時代初期から徳川家康が建立したと伝えられる品川御殿があったとのこと。そのため現在もこの付近には「御殿山」と呼ばれている地名があるそうです。
 
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余談ですが、公演の情報宣伝のためのポスターやチラシにこの大屋根の上での立ち回りポーズが採用されていますが、なぜ大屋根の上での立ち回りになったのか、気になってました。二代神田山陽の講談「大岡政談」のCDを聞いてみたところ、今回のお芝居にも登場する赤川大膳(柴田彦さんが演じておられます)は、講談では、最後まで逃げのびようとする卑怯な悪人で、その大膳が、逃げ回って品川の御茶屋(品川宿は遊郭がたくさん置かれていました)の屋根に逃げたという件りがありました。それと関連しての発想なのかどうかは不明ですが、大屋根での立ち回りになった理由を私的には知りたいものです。

これで、ひととおり私が拝見した限りでの、覚え書きを基にした、気ままなレポートは終わりますが、まだ
何度か、拝見しますので、また新たな発見、あるいは、お芝居そのものの進化なりがあると思いますので、随時、お知らせできればと思っています。

以下は、ネットで、このお芝居についての感想、劇評などないかチェックしていたら、嬉しいサイトを発見
しましたので、ご紹介させていただきます。プロの方か、一般の方かは、わからないのですが、幅広い芸能・芸術分野を対象に書かれているブログのようです。感謝です。
 
悠草庵の手習  9月9日観劇 
http://www.suocean.com/wordpress/?p=4131
 
春日局スケジュール:16日~19日
16日 昼の部 (アフタートーク)
17日 昼の部
17日 夜の部
18日 昼の部
18日 夜の部(みんなde舟木)
19日 昼の部 (アフタートーク) 

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