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Channel: 舟木一夫の世界~れんげ草の咲くさんぽ径~
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「天一坊秘聞~八百万石に挑む男」舟木さん演じる山内伊賀之亮とは~「徳川太平記 吉宗と天一坊」その3

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ちょっと間が空きましたが、このタイトルの「その3」です。
前回「その2」では、天一坊と後の山内伊賀之亮となる神矢主膳との初めての出逢いの場面~「貞女誘拐」「競馬無情」~から簡単に抜き書きして掲載しました。
 
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今回は、その神矢主膳が、なぜ兵法者として修業の旅に出ることになったのかのいきさつについてと将軍吉宗との出逢いについて抜き書きをしようと思います。
 
その前に、舟友さんから、ご紹介いただいた以下のブログについて掲載させていただきます。
「花の生涯~長野主膳ひとひらの夢」「いろは長屋の用心棒」のパンフレットにもお名前が掲載されています。舟木さんの舞台芝居の音楽をここ4、5年ずっと担当なさっている笠松泰洋氏のオフィシャルブログです。8月16日と17日に、舟木さんの「八百万石に挑む男」公演の音楽の進行具合についてなど書かれています。こういったホットな情報を目にすると、ますます、初日が楽しみになります。
 
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以下、抜粋させていただきます。
 
イメージ 2笠松泰洋の作曲家日記 より
http://blogs.yahoo.co.jp/synlogue/38117828.html
8月16日
26日にオケ録を控えていますが、とりあえず、明日までに、いったん舟木さんの方は全曲作ることになっていて、あと8曲。しかし、大詰めは、全くの新曲が出て来ることは少ないので、ここまでほぼフルオケスコアで作ってあるものを組み合わせてある程度は突破できます。でも、間に合うか。今日の粘りが分かれ目ですな。
主人公の伊賀之亮(舟木さん)と大岡越前(林与一さん)の対決は、2人のテーマメロディが完全同時進行する、という、まるでマイスタジンガー(ワグナーのオペラ)のようなことをしました。凝り過ぎると作曲家の独善に走ってしまうので、気を付けながら、ですが。稽古場で流し、演出家、舟木さんの目が入るので、独に走れるものでもないはずです。舟木さん、歌手としてずっと生き延びてきた人だけあって、音楽にはなかか鋭く厳しいです。そこがいいのですが。それでも、どこかでは、徹底的に独善で走ることもしなければいないとは思っています。2000人の劇場で40回の公演、単純に8万人の観る公演。全ての人に感動してもらえるよう、あらゆる手を尽くします。.
 

イメージ 38月17日
舟木さんの公演の音楽、全33曲、一旦完成。17日の正午からの稽古から音響さんが入り、音が出るので、それまでに全曲上げます、と、宣言したのですが、いつもながら、ギリギリ間に合いました。今は朝の7時5分ですが、徹夜ではなく、昨夜は、10時にもう頭も心も止まってしまい、近所の焼き鳥屋さんでちょっと飲んで、帰って、とりあえず寝て、今朝4時起き。最後のエンディングの曲をじっくり作り、今終わりました。
福井の音楽祭から帰ってきて、3日間で17曲(と言っても、芝居の後半は、全くの新曲というより、これまでの音楽の再現であったり、ヴァリエーションが入ることが多いので、後半の方が楽なのですが)、ほとんど3日間、家を一歩も出ずに作り切り。しんどかったあ。今日から、稽古場で芝居に合わせて音を出してもらい、合っているかどうかチェックし、修正を入れていきます。きっと丸ごと作り直しの曲も幾つかは出て来ると思うので、あと一踏ん張りです。通常の小編成オケに加え、箏、琵琶も入ります。鈴木広志くんのサックスもバンバン入ります。録音が楽しみじゃ。9月2日から、新橋演舞場です。前半が芝居、後半が舟木一夫ワンマン歌謡ショーです。(こちらはノータッチ!)

では、閑話休題
 
徳川太平記 吉宗と天一坊 下巻  (春日局まとめ)
 
・将軍街道
埃っぽい往還を、浪人者、神矢主膳はさして急ぐでもない足どりで歩いていた。五月の陽光は、もう眩しく暑い。神矢主膳は、左手に梔子(くちなし)の小枝を携げていた。とある古刹のかたわらを行きすぎがけに崩れた土塀から咲き出た清楚な花びらに目をとめて、手折ってきたのである。
花の好きな男であった。
 
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五年の長い歳月を丹波の山奥でけもの対手(あいて)に剣法の独学をやり遂げてきたが、時に孤独に堪えきれずに、狂暴な衝動にかられると、主膳は、香気を放つ花をさがしてきて、それを凝っとみつめて、幾刻でも過す修業をした。鹿や熊を追って奥へ奥へと踏み込んだ日など、目のさめるように美しく咲いた花を発見してそのまま、前に蹲って、半日でも眺めたことも、一度や二度ではなかった。
おのれでも不思議なほど、花の綺麗に魅せられる男であった。兵法者としては自慢にならぬ趣味であるかも知れなかった。しかし、自身ではこの趣味で救われている気がしている。
家を出奔したのは十四歳の時であった。陰惨な家庭の内情に堪え切れなったからである。
 
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~六十を越えた父と、三十半ばの美しい母。父は、中風で全身不随であった。母は、父の下僚であった隣家の
男と密通していた。ある春の宵、主膳は姦夫姦婦を父に代わって成敗するほぞをかためてその庭に忍び入った。
主膳をして離れへ踊り込むのをはばんだのは、白木蘭の豊麗で温雅なすがたであった。主膳は姦夫姦婦を斬る
代わりに、その一枝を剪って、わが家へもどって来た。そして、それを竹の花筒へ挿して、父の寝室へ行き、
黙って、柱へ架けた。~
 
ほう、美しゅう咲いたの」父は微笑して眺めた。主膳が黙って頭を下げて、出て行こうとすると、父は「待て…」と呼びとめた。
父は主膳を枕辺に座らせると「隣へ、忍んで行ったのであろう?」と問うた。主膳が返事をせずにいると「よう我慢した。ほめてやる…いや、待て、何も申すな。…いま事を荒立て、この不始末を世間に知られたところで、当家に益するものは、何もないのだ。…枕を頭からはずしてくれ」父は命じた。主膳がそうすると「枕の中に、金子が入って居る。お前が、修業の旅に出て、五年や六年は、不自由なくすごせるだけある。持って行け「わたくしに、旅へ出よと仰せですか?」
「そうだ、父の長患いのことも、母の不義のことも、何かも忘れて、修業せい」
「……」
「お前には剣の天稟がある。修業を積めば一流を樹てること夢ではあるまい」
「父上はおひとりになられてかまいませぬか?」
「死神はもうそこまで迎えに参って居る。…わしは、わしの目の黒いうちにお前を修業の旅にだしてやりたいのだ。そのことを、この一年あまりずっと考えてきた。今宵がその機会であろう」
「それでは、子としての務めを、なにも果たせませぬが…」
「世間並みの口上きかせるな。不治と判って居り、死神がそこまで迎えに参ったと予想して居るわしが、お前に命ずるのは、この家を出て行くことの他に何があろうか…」
主膳は寝室を出て、その足で、屋敷をすてて兵法修行の旅路へ向かったのであった。
あれから、十五年経つ。
 
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天一坊によって鹿背山のふもとの草堂に閉じ込められていた、天一坊の「競い馬」の相手、蒔屋参之助の姉・春菜が、主膳の後を追ってついてきている。
「…まだ、ついてきて居る」主膳は歩きながら思った。べつに振り向きもしないのだが、ちゃんとわかってい
た。主膳は左手に携げていた梔子の一枝を、おのが頭越しに後方へ放った。宙をひらひらと飛んだ匂い花は、十歩ばかり離れて歩いている女性(にょしょう)の胸へ落ちた。はっ、と受け止めた女性は、主膳の後ろ姿へなにかとり憑かれたかのような眼差しを当てた。

「おれについてきて、どうするというのだ?」春菜はうつむいた。
「おれについてきても、どうにもなるまい…そなたは弟の仇討をするといっていたが、おれに助太刀をたのむつもりなら、あきらめてもらわねばならぬ」主膳は言った。春菜は顔をあげて主膳を見た。
「貴方様は兵法の達人と存じまする」春菜は、あの草堂を飛び出そうとして、この浪人者に「待て!」と声を
あびせられるや、足が呪縛されたように動かなくなったものであった。ただの浪人者ではない、と判った。
「あいにく、まだ、人を斬ったおぼえはない」
~中略~
「剣と言うものの使い方を、いま、そなたに見せる。婦女子や子供の決して使うものではない、ということを
な」と言った。春菜は、主膳の鋭い眼光に射られて思わず身をすくめた。主膳は再び顔色をやわらげると
「しばらく、ここで、待っていてもらおうか」と言った。
「どうなさるのですか?」
「あと半刻も経てば、むこうの街道を、大名行列が通る」
「……?」
「その行列に対して、おれが、この孤剣をふるってみせる!」
 
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・同行二人
 
白く、ひとすじに、のびた街道を行列は、しずかに初夏の陽ざしの中を進んで行く。前後に人影はなく、紀州吉宗の道中のために、家々は店を閉じ、火を揚げず、犬猫もつないで外に出していない。
街道の左右の、夏を迎えた青草も、京に近づくと、なんとなく優しいように思われる。その茂みの中から百合が、白い花を、すっきりと浮き上がらせて匂おうている。
遠く前方に馬蹄の音をききながら吉宗は放心していた。われにかえったのは、先払いの徒士たちが叫んで、疾駆してくる馬に向かって走り出したからであった。馬に乗り手はみとめられなかった。狂い馬であった。行列は停止した。すべての人の視線は奔馬とそれをとり抑えようとする徒士たちの躍起な動きへ集中した。
不意に鳥影に似た迅さで、茶畑の中から、男が一人、奔り出てきた。
これに対処する素早い動きを示したのは吉宗ただ一人であった。曲者が抜刀するのと、吉宗が乗物から飛び出して、そばにいた若党の手から薙刀を掴み取るのが、殆ど同時であった。
「紀州吉宗公。見参!」むさくるしい浪人ていの曲者は、吉宗がふせぎの構えをとった薙刀を、目にもとまらぬ迅業で、鍔もとから一尺ばかりのところでま二つに両断した。
「曲者っ!」
「狼藉!」
左右の家臣らは、逆上しながら、一斉に抜刀して、肉薄した。
ここで斃れては、かなわぬ!吉宗は、手にのこった柄を曲者に投げると、うしろ跳びに、おのが身を、したたか乗物へぶつけた。吉宗のからだは乗物とともに、ころがった。左側はゆるやかな青草の斜面になって居り、吉宗は乗物とひとつになって、幾回転かして落ちていった。曲者は家臣らがあびせる刃風をくぐって、斜面を跳躍した。家臣一同は思わず絶望の声を発した。主君を救う手立てがなかった。曲者の動きがあまりに早すぎたのである。吉宗が堤下で、血煙をあげる光景を、すべての者が想像した。吉宗は斬られなかった。吉宗を救ったのは、一本の百合であった。吉宗は、脇差を抜いてふせぐいとまがないままに、夢中で右手を差し出したのであった。自身で折り取った意識もなく、その手に、百合を掴んでいたのである。美しく咲いた花は、その名のごとく、ゆれながら、曲者に向かって香気を放った。
一瞬、曲者は、大きく双眸を見ひらいて棒立った。その隙を狙って小人頭が槍を投げてきた。左肩を貫かれた曲者は、「うっ!」と身を反らせたが、踏みこらえて
「不覚!」と自嘲の一語を吐いた。
 
~中略~
イメージ 8「その方は、わしを討てた筈だぞ。わしの手には、百合一本しかなかったではないか」
「その百合の花が、それがしの腕をにぶらせたのでござる」
「なぜだな?」
「いかなる人間にも、盲点というものがござる」
「花の香をかぐと、心気が虚しう相成るのか?」吉宗は微笑した。
「五年の間、丹波の山中にて、剣法を独り学びつかまつるうちに、孤独の寂寥をまぎらすために、香気を放つ花を眺めることにいたして居ったのでござる。それが、禍となったとは、皮肉なものでござる」
曲者…神矢主膳は、死を前にして吉宗の微笑に合わせて口辺に明るい色を刷いてみせた。吉宗は、その顔をじっと見下ろしていたが、しずかに乗物へもどった。
「殿、この者をいかがあそばします?」側用人が、不審の面もちで処置法を乞うた。
「すておけ」吉宗は答えた。
「すておくのでございますか?」吉宗は家臣たちを見まわした。
「それとも、そやつの縄を解いて、尋常に立ち合って勝てる自信のある者が、そちたちの中に居るか?」
一同は言葉もなかった。吉宗は主膳を見て「これからは、花の香に惑わぬように、修業しなおすがよい」と言いのこした。

主膳は街道上に、一人、ぽつんととりのこされて、遠ざかっていく行列を見送った。
「人間の出来がちがう!」主膳は長い沈黙の後に、呟いた。
自分に吉宗を襲わせた者と比べたのである。依頼者は亡父の主人に当たる人物であった。浪人していた父を召し抱えてくれた恩義があって、主膳は刺客の役目を受諾したのである。
紀州吉宗は討たずに去っていった。その寛容に主膳は苦痛を覚えていた。肩に負うた痛みよりもその苦痛の方が堪えがたかった。
 
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~中略~
一部始終を見ていた春菜とともに歩きだす主膳。
「弟を喪ったそなたと、紀州殿を討ちそこねたそれがしと…目的をなくした男女がこおうして肩を並べて歩いて居る。わびしい景色だな」
「……」
「どういたそうかな。ここらあたりで、そなたと別れるか。それとも、このまま歩き続けるか」
春菜はしばらく沈黙を置いてから
「わたくしを、おつれ下さいませ」とたのんだ。
「どこまで…?」
「貴方様が、いやにおなりになるところまで…」
そうこたえたとたん、春菜は、遽に、胸に動悸を覚えた。この男について行くよりほかに、自分の生きる道はないのだ。春菜は、自分に言いきかせたのである。
 
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