「鬼に笑われる」のも、顧みず、心はすでに、来年二月の新歌舞伎座公演へと向かって飛んでいる今日この頃です。
新歌舞伎座 舟木一夫特別公演 花の風来坊~おとぼけ侍奮闘記~
新歌舞伎座公演 「花の風来坊~おとぼけ侍奮闘記」 脚本:井川公彦 演出:成瀬芳一 あらすじ
手元のチラシや新歌舞伎座のHPを見ると、原作者は北園孝吉とあります。早速、手元に原作の文庫版を取り寄せました。
主人公の「おとぼけ侍」なる松平誠之助、実は十一代将軍徳川家斉のご落胤。宮津七万石の御世継ぎ。世をしのぶ仮の名を深海鯛平(お芝居では天下泰平)。そのイメージは、もうくっきり、はっきりと舟木さんのお顔と姿形ができあがっていますので、声も、勝手に舟木さんのステキなお声を描きながらセリフを読んでいくので、どんどん読み進めてしまいました(笑)
タイトル通りの「おとぼけぶり」を随所で見せる上品で色白の二枚目。美女たちにモテ過ぎて困ったあげくのらりくらりとかわしてスタコラと逃げる様もライトコメディ・タッチです。
腕はめっぽう立つのに、争いを好まず、「悪者」たちにからまれると、持ち前のおとぼけを発揮して、ひたすらその場から逃げるのみというのも嬉しく、強くて優しい「おとぼけ侍」のイメージが、舟木さんそのものという感じです。お江戸の風情もたっぷり感じられ、クスッと笑えるほのぼのとした楽しい時代小説でした。
私の取り寄せたのは、春陽文庫で、定価が160円。昭和46年4月20日第一刷発行、昭和47年7月15日第八刷と裏書に印刷されています。わずか一年余りの間に8刷まで出ているので、当時のベストセラーと言ってもいいように思います。初版は1957年発行のようです。
~春陽文庫「おとぼけ侍」カバーの紹介文~
江戸八丁堀の掃きだめ長屋に住む大男のひげ浪人阿部川勘蔵のところに、深海鯛平と名のる美男浪人がいそうろうにやってきた。腰の刀は竹光でも鯛平の剣の腕はすごい。阿部勘と鯛平のふたり組は、町の看板や障子の字を書きかえる字書き屋という気楽な商売をはじめた。同じ長屋に老いた浪人加山勝右衛門とその娘の美女鶴江が住んでいたが…。不運にも勝右衛門は夜道で行きあった覆面の武士の一行に切り殺されてしまった。その一部始終をみとどけたのが、二代目ねずみ小僧ことあんまの富ノ市であった…。どもりで気のいい姐御ふうてんのお吉、悪岡っ引きキズ源、深川の美妓小えん、卍どもえと諸人物が入り乱れてくりひろげる明朗時代劇!そして、主人公・鯛平の意外な正体は。
1957年には、既に発表されていて何刷も発行されている人気小説なので、これはきっと時代劇の全盛期に映画化されているのでは?と推理して、さらにチェックしてみたら・・・なんと、図星!1961年に、大川橋蔵さん主演で「橋蔵の若様やくざ」として映画化されていたのですね。
原作を読みながら「想像のつばさ」を広げて、どんな舞台になるのか徐々にワクワク度を高めています(笑)原作については、amazonのサイトを見るとまだ在庫がありますので、興味とお時間のある方は、御覧下さいね。
橋蔵の若様やくざ 1961年6月11日 劇場公開
監督:河野寿一
脚色:結束信二
原作:北園孝吉
キャスト
大川橋蔵:鯛平
木村功:鼠小僧三郎吉
大川恵子:鶴江
桜町弘子:お雪
久保菜穂子:いざよいお吉
千秋実:阿部川勘蔵
大河内傳次郎:後東四郎右衛門
木村功:鼠小僧三郎吉
大川恵子:鶴江
桜町弘子:お雪
久保菜穂子:いざよいお吉
千秋実:阿部川勘蔵
大河内傳次郎:後東四郎右衛門
あらすじは、映画解説のサイトよりも、下記の「時代劇映画感想文集」がバツグンに面白くて映画の雰囲気がよく伝わってくるように感じたので、転載させていただきました。「リンクはご自由に!」となっていましたので、ありがたく使わせていただきました。
あくまで映画化の際に原作が脚色されていますので、北園孝吉氏の原作とはいくらか異った部分があります。舟木さんの舞台も、原作や、映画とは、またひと味違う新たな脚色になっていることでしょうね。
あらすじ (時代劇映画感想文集 http://www.geocities.jp/mirror_django/index.html)より
徳川十一代将軍の頃、宮津を治める松平丹後守は将軍より、千鳥の香炉を賜わったが、二代目鼠小僧(木村功)に盗まれてしまった。鼠小僧は丹後守の政敵の大名、風早主水亮(安部徹)に雇われて、この盗みをしたのだが、風早の人物が気に入らなかったので、今度は風早邸から香炉を盗み出し、幸福の手紙(今で言う不幸の手紙)をくくりつけて、江戸市中に放り出してしまった。
ある日、江戸の町に大道芸で生計をたてている浪人、安倍川(千秋実)をからかうやくざ者、鯛平(大川橋蔵)が現れた。鯛平は鼠小僧の行方を追っていたが、お吉という女(久保菜穂子)に有り金をスラれ、人のいい安倍川の長屋に転がり込んだ。お吉は鼠小僧の女房だった。安部川の長屋に年老いた浪人と、その娘が住んでいた。年老いた浪人、加山達衛門(小沢栄太郎)はかつての主君、風早の元に金の無心に行き、そこで風早が香炉を盗んだことを知り、殺害されてしまう。身よりのなくなった美しい娘、鶴江(大川恵子)を鯛平達が励ます。
しかし実は鯛平が求める香炉は鶴江が今は持っていることを、鯛平は知らない。
悪徳目明かし、キズ源(沢村宗之助)は、鶴江を風早の屋敷に奉公に出そうとする。一度は断った鶴江だったが、鼠小僧から風早が父の仇であることを知らされ、仇討ちの決意を固めて奉公に出る。一時、姿を消していた鯛平は侍姿で再び町に現れ、事情を知ると、風早の江戸屋敷に向かう。鼠小僧夫婦も同伴し、三人は鶴江を助けて大暴れ。鯛平は風早を斬り、鶴江が止めを刺して、父の仇を討った。
鯛平達が外に出ると、奉行所の役人たちが多勢待ち構えていて、逮捕されそうになるが、松平藩の家臣たちが駆け付ける。先頭に立つ松平藩家老、後藤四郎左衛門(大河内伝次郎)が、「この方をどなたと心得る!」
一喝する。どなた、って松平藩の若様でしょ?って観客は思うわけだが、全くその通り、松平藩当主丹後守嫡男、松平新太郎だった。若様は鶴江から香炉を返してもらい、念願の目的を達成した。
こうして一件が落着し、若様は国元に向かうが、それを後藤が追いかけて来る。江戸屋敷に大事に保管していた香炉が、鼠小僧に奪われてしまったという。「じゃ、また江戸に戻って香炉を探すわ」と言う若様。ほんとは香炉を鼠に盗ませたのは、若様本人。江戸の人たちとの交流が忘れ難く、江戸に戻る口実がほしかったのだ。「今度は長くなるかもな」と言い残して、裃・袴を脱ぎ捨て、江戸に向かう若様。帰って来る若様を、仲間達が出迎える。遠眼鏡を鼠小僧から取り上げて、安部川が覗くと、そこに映るのは、「終わり」の文字だった。
原作によると鯛平が、すし売りになりすまして、悪漢の風早屋敷に忍び込んだ時の様子を、北園氏は、こう描写しています。
麻布長坂の風早屋敷へ、現れた男も、豆しぼりの手ぬぐいを吉原かぶりにして、ちくさのもも引き、麻裏ぞうり。それに、この男は、菊五郎格子の縮みを軽く着こなして、しりっぱしょりしたこいきな姿。
どこから見ても「すし売り」で、これが深海鯛平とは思えないほど、身のこなしもいたについている。
そこで私が、気になったのが「菊五郎格子」です。
菊五郎格子
縦4本と横5本の合計9本の縞を縦横に交差させた格子柄の間に「キ」と「呂」の文字を入れ
「キ九五呂(きくごろ→菊五郎)」を読ませる。
江戸後期の文化・文政時代の歌舞伎俳優、三代目・尾上菊五郎(おのえ・きくごろう)が
江戸後期の文化・文政時代の歌舞伎俳優、三代目・尾上菊五郎(おのえ・きくごろう)が
考案したとされる。
チラシで舟木さんがお召しになっているのは「菊五郎格子」ではなく「桧垣」「網代桧垣」というのでしょうか?いずれにしても、とっても粋ですね。