舟友のkazuyanさんが、私の撮影してきた写真をステキすぎる動画にしてくださいました。感謝!
今回は、普段は携帯カメラしか使わない私が、珍しくデジカメ(これもむっちゃ古いもの)を持参して、合計130枚ほど写真を撮ってきました。いつもお世話になっている舟友のkazuyanさんから、動画を作りませんか?という本当にありがたいお申し出を頂戴しましたので、私のヘボ写真から60枚ほどの画像をお預けしたところ、あっという間に、「これ、私が撮った写真なの?」とびっくりするほどステキな動画に「ヘンシ~ン!」させてくださって、うるうるするほど感激しています。
ですから、ヘタな旅行記をご報告するよりも、kazuyanさんの動画をご覧になっていただければ、それだけで十分だと思います。まずは、動画をご紹介させていただきます。
動画に使用した画像は、松江城、宍道湖と嫁ヶ島、堀川遊覧船、堀川の川端、武家屋敷、小泉八雲旧居、明々庵から見た松江城、レイクラインバスなどです。他に八重垣神社、島根県立美術館などにも行きました。観光案内っぽくなるので、とりあえず「絶唱」にかかわる画像のみで構成していただきました。せっかくなので、松江らしい食べもの「しじみ丼」「割子蕎麦」もチラリとお見せしてます
「舟木染物店」のお写真も、入ってま~す
以下は動画には入っていない写真です
八重垣神社
一昨年舟木さんのコンサートが開催された県民会館
舟木染物店のすぐ近くのカフェ「珈琲館」…おススメです。
島根県の観光キャラクターのしまねっこ
松江で撮影した写真を、kazuyanさんがこんな素敵な動画作品にしてくださいました。
アルバム「舟木一夫 西条八十の世界を歌う~日本の四季」(1972年6月)収録
「吉野木挽唄 ~ 絶唱」音源
吉野木挽唄
ハアー 吉野吉野と 訪ねてくればよ
吉野千本 サア 花盛りよ
吉野千本 サア 花盛りよ
ハアー何んの因果で 木挽を習いよ
花の盛りを サア 山奥によ
花の盛りを サア 山奥によ
小雪~ぃ~ッ!
絶唱 作詩:西条八十 作曲:市川昭介
愛おしい山鳩は 山こえて どこの空
名さえ はかない 淡雪の娘よ
なぜ死んだ ああ 小雪
名さえ はかない 淡雪の娘よ
なぜ死んだ ああ 小雪
結ばれて 引き裂かれ 七年を西東
いのち短く 待つ日は永く
泣きぬれた ああ 小雪
いのち短く 待つ日は永く
泣きぬれた ああ 小雪
山番の山小舎に 春が来る 花が咲く
着せて 空しい 花嫁衣装
とこしえの ああ小雪
着せて 空しい 花嫁衣装
とこしえの ああ小雪
るるる~
なぜ死んだ ああ 小雪
以下はオマケです(笑)
舟木さん主演の1966年9月公開の日活映画「絶唱」では、原作の「湖畔の記録」に書かれている松江については触れられていなくて、順吉と小雪が駆け落ちして行く先は、砂丘の見える日本海に近い町という描写になっています。細かな描写も原作とはいくらか異なって脚色されているのですが、原作を読んだときにイメージした松江の風景とか文学の香りのようなものがとても印象深くて、いつかは訪れてみたいと思っていました。
チャンスを逃すと行けないままで終わってしまいそうな気がしたので、今回、思い切って出かけてみることにしました。
京都駅から、6月21日の夜行バスで松江に向かい、22日早朝に松江駅に到着。23日の夕方6時までの丸二日間、憧れの松江市に滞在しました。
原作の「絶唱」は、作者である大江賢次の実在の文学仲間をモデル(園田順吉)にしており、大江自身を「私=大谷」という一人称と位置付けて語っていくスタイルです。「私」が、初めて園田家を訪れる場面から物語が始まります。第一章「山鳩の小雪」、第二章「湖畔の記録」、第三章「葬婚歌」という構成ですが、その第二章「湖畔の記録」は、順吉が小雪を伴って園田の家を出奔して、宍道湖や松江城という美しい景観の松江市街地で、文学同人誌「野火」の同人仲間たちの祝福と励ましの中で貧しくもささやかな安らぎのある新婚生活をおくり、やがて出征、その後は、ひとり残された小雪の苦難の日々を大谷の視線から描いていくという部分になります。
水の都、静かな地方都市の城下町松江のイメージは、原作を読む以前の私の中ですら大きな位置を占めていた「絶唱」という作品にあまりにもピタリと重なって、それが、映像の「絶唱」と渾然一体となり、いつの間にかさらに、この目で確かめてみたい憧れの町となってしまいました。
そして、実際に訪ねた松江は、私の過剰な期待を裏切らないイメージ通りの印象でした。今回、末娘と同行しましたが、彼女も大いに松江の町を気に入って、「住んでみたい」とまで言っています。金沢も彼女のお気に入りですが、どうやら金沢を超えて、今は、「松江大好き」になったようです(笑)
確かに観光地ではあるのだと思いますが、「観光地化」はされていないと感じました。間もなく松江城が正式に国宝となるそうですが、人も風景も、今のままで、「観光地化」されずに、静かで品格を保つ地方都市として、訪れる人の心に安らぎを与えてくれる町であり続けてほしいと願っています。なんたって私の大好きな順吉さんと順吉さんの心を救った光でもあった小雪さんが、ふたりして、ひたむきに愛を育んだ町なのですから。
「絶唱」(1966年9月17日公開)映像とのコラボ~大江賢次「絶唱」より「第二章 湖畔の記録」
ついに、「山鳩」のつがいが飛び立ったのである。私たちは精神的に支持したとはいえ、なに一つとして力になることができなかったのを、ひそかに愧じた。
そこである日、同人たちが園田順吉の下宿へ集まって、ささやかな祝宴をひらくことにした。私たちは、それぞれのポケットマネーのゆるす範囲で、この世にもいとしい新夫妻の前途を祝って贈りものをととのえた。それを皆は秘密にしてニコニコと駅へあつまった。
~中略~
園田順吉の下宿は経師屋の二階六畳で、窓からは宍道湖の入り江越しに城の天守閣が見えた。その天守閣の倒影が、カイツブリのさざ波でうつくしくゆれた。
「ついそこに、志賀直哉が若い時に住んだという家があるんだぜ」と順吉は指さした。
「小泉八雲も住んでいたし、森鴎外もこの地方の出身だし、、文学にゆかりのある土地なんだから、君もうんといいものを書くさ」~中略~
「小泉八雲も住んでいたし、森鴎外もこの地方の出身だし、、文学にゆかりのある土地なんだから、君もうんといいものを書くさ」~中略~
小雪は、階下の台所でマゴマゴしている様子だった。かの女は私以外の同人たちとは初対面で、山のむすめらしくひどくはすかしがっているのにちがいない…
とうとう、順吉は気を焦らして階下へ降りて行った。経師屋のおかみさんの陽気なわらい声が聞こえた。やがて、順吉は茶盆をこぼさないように持って上がってくると
「…僕に勇気を与えてくれたひとが、なんと今日は僕に勇気をださしてつかあさいだって、いやはや!」
そのうしろから、小雪が隠れるように小さくなってついて上るのを、経師屋のおかみさんの両手が押し上げている。そうした純朴なはにかみがほほえましく可憐で、一同は和気藹々と拍手でむかえた。かの女は、苺のようにまっかになって、ちんまりと消え入らんばかりにおじぎをした。
「小雪です、僕同様によろしくおねがいします。」
順吉は簡単に紹介すると、こんどは小雪に同人たちをいちいち紹介して、
「小雪です、僕同様によろしくおねがいします。」
順吉は簡単に紹介すると、こんどは小雪に同人たちをいちいち紹介して、
「いちばん端から、駅長の佐野君、郵便局長の笹本君、地主の田中君、雑貨店主の森本君、銀行の出納係主任の川田さん、校長の大谷君、、大地主の吉原君…」
わざと身分を高く紹介したので皆はわらったが、小雪はまじめに受け取っていちいちおじぎをした。わけても、一番しんがりに大地主と紹介をされた小作人の吉原準平は、まるで園田惣兵衛そっくり鷹揚にかまえると、
「これはこれは奥様、はじめてお目にかかりますだぁ」と農民らしくばか丁寧に、鹿爪らしく挨拶をしたので、
「ま、け、…好かん」と、思わず小雪は袂で顔をおおった。~中略~かの女があわてて空の銚子をもって降りた。
わざと身分を高く紹介したので皆はわらったが、小雪はまじめに受け取っていちいちおじぎをした。わけても、一番しんがりに大地主と紹介をされた小作人の吉原準平は、まるで園田惣兵衛そっくり鷹揚にかまえると、
「これはこれは奥様、はじめてお目にかかりますだぁ」と農民らしくばか丁寧に、鹿爪らしく挨拶をしたので、
「ま、け、…好かん」と、思わず小雪は袂で顔をおおった。~中略~かの女があわてて空の銚子をもって降りた。
「け…好かん女史がおりた間に。…僕たちはその日、あの城の天守閣へのぼった。そして天守閣からふたりで手をつないで『天下のみなさん、園田順吉と木村小雪とはただいま結婚しました』ととなえただけ」
「ううむ、とってもロマンチックじゃないか、それから…?」
「小雪は紙の折鶴をつがいに、湖の方へむけてとばした。すると、白い僕の折鶴は天守閣の甍にひっかかって、赤い小雪の折鶴は風に吹かれて…山鳩みたいにとび去った。すると小雪は気をせいて、ひっかかった僕の折鶴をとばせようものと、窓から背伸びをして、フーフーと吹くんだが、とても遠くてとどくもんかね。かの女、なかなかの詩人だぜ」
「それから夜はどげした…?」
「それから……以下次号のおたのしみにしてくれ給え」と順吉はわらって……僕はしあわせだ!小雪は日本一の花嫁だ!これが、僕のたった一つのおのろけです」
「ま、け、妬(けなる)!」と思わず、川田マサがさけんだので、皆はドッとわらった。
そこへ、小雪が上がってくると、みんなは一斉に拍手をして迎えたので、かの女はすっかり当惑して消えてなくなりたいような風情だった。~中略~
まことにささやかではあったが、まごころの籠った贈りものは双方とも気持ちがすがすがしくて上すべりな儀礼に愛情がうって変っていた。もしも、これが園田家の婚礼だったらどうだろうか…?
~中略~ここには貴顕の綺羅星も美酒佳肴も、ことをこしらえたような美辞麗句もなくて、ただ、真実に生きようとこころざす青年たちの、こころをこめたヒューマニティがみなぎり香っていた。
~中略~ここには貴顕の綺羅星も美酒佳肴も、ことをこしらえたような美辞麗句もなくて、ただ、真実に生きようとこころざす青年たちの、こころをこめたヒューマニティがみなぎり香っていた。
順吉と小雪は、それらのきよらかな贈りものを雀踊り(こおどり)せんばかりに、なんべんも手にとっておしいただいて眺めた。小雪は、さっそく川田マサのエプロンをつけたが、アップリケの山鳩が生きてちょっと動くと飛び立つようで、
「そのエプロンすがたで、もう一献、お酌を…」と私は活発に盃をさしだした。
うぶうぶしいエプロン姿の小雪についでもらった酒は、なにがなしいちだんと冴えたように思われる。
「ほほう、お城の天守閣がうつった!」と笹本卓治は盃をのぞきこむと、「ああ、文学する心はいいなぁ、いいなぁ、われ今、まさに千鳥城を盃に所有す、だ!」
私たちは、彼にならって、それぞれ遥かな天守閣の倒影をうつしてたのしんだ。城は盃の中にふるえ、芳醇に匂って、文学するこころへたゆたい…すると、誰ともなく『荒城の月』をうたいはじめた。合唱をすると盃のさざ波に天守閣が縮緬にほほえむ。酒をのみ干すのがこの上もなく惜しくて、いいようのない和やかなよろこびの中に、私たちは幸せであった。
荒城の月 ~舟木さん歌唱
https://youtu.be/iYHXEuuYQYs
https://youtu.be/iYHXEuuYQYs
(kazuyanさんの動画です)
「やぁ、天守閣から折鶴の山鳩がとんだ!」
「ほんとだ、ほんとだ、つがいで仲よく、湖の上を飛んじょるぞ…」
「ほうら、とうとう経師屋の二階へ、飛んで戻ったがな」
「なんと、同人の前で、もういっぺん、結婚式をあげようじゃないか」
「賛成…新郎新婦が、ならんで座って下さいよ」
そこで、同人たちは、ふたりを正面にならんで座らせると、川田マサが酌をして盃をとり交わさせた。すると森本保太郎は、高砂をうたいはじめ、その盃は同人たちへ次々と廻された。私たちはしきりに『おめでとう』をくり返した。
「ほんとだ、ほんとだ、つがいで仲よく、湖の上を飛んじょるぞ…」
「ほうら、とうとう経師屋の二階へ、飛んで戻ったがな」
「なんと、同人の前で、もういっぺん、結婚式をあげようじゃないか」
「賛成…新郎新婦が、ならんで座って下さいよ」
そこで、同人たちは、ふたりを正面にならんで座らせると、川田マサが酌をして盃をとり交わさせた。すると森本保太郎は、高砂をうたいはじめ、その盃は同人たちへ次々と廻された。私たちはしきりに『おめでとう』をくり返した。
「僕たちは、毎日が結婚式なんですよ。ずっと一生涯」と、順吉はこころからむつまじげに「ねぇ、小雪…?」「ええ、若様、…」小雪が素直にうなずき返すのへ、
「若様じゃないったら小雪、順吉さんとか、あなたとかって呼ぶんだよ」
若様と呼ばれた彼はいまいましげに、だが、うれしそうに、若干私たちに照れながらたしなめた。
しかし、小雪は、どうしても「あなた」とよべなくて、つい又しても「若様」のよびぐせが口に出るので困ってしまうと、ベソをかきながら涙ぐんでジイッと窓からみつめている。~中略~
小雪は気をとり直して、あかるく微笑んだ。…私たちも明るい雰囲気へひきもどそうと余興をはじめた。~中略~
下の経師屋のおかみさんも上がってきて見ていたが、
「所望、所望、わしも踊りますぞね」
姉さんかむりに襷がけをして、盆をもってひとくさり踊った。
「さぁ、こんどは小雪さんの番だ」
「所望、所望、わしも踊りますぞね」
姉さんかむりに襷がけをして、盆をもってひとくさり踊った。
「さぁ、こんどは小雪さんの番だ」
かの女はすっかり尻ごんで、掌を合わせんばかりにかんにんしてほしいとなんべんも辞退をしたが
「だめだめ、園田順吉の妻じゃないか…」とかなり酔った順吉が激励したので、
「じゃ……やります」と、ほとんど絶望的なまなざしでうなずいた。
小雪は、いきなり立ち上がると、閾(しきい)の上にふんばって両手で障子をもった。そして、それをゆるやかに押したり引いたりしながら、唄いはじめた。……
アー 吉野吉野と
たずねてくれば ヨー
吉野千本 サー
花ざかり ヨー
たずねてくれば ヨー
吉野千本 サー
花ざかり ヨー
動作から察して、まさしく木挽唄にちがいなかった。それは深山の谷間で、春の日をのどかにただひとり、鶯を友にしてくらす木挽の実感がみちみちていた。山でおぼえたものであろうが、澄んだ声が障子の音に和して、よりどころがないという町の小雪の、せめてもの郷愁を癒すよすがとも思われた。
すると、このとき、順吉がたまりかねたように座を立つと、いきなり小雪のところへ行って力強く抱きしめて、
「小雪!小雪!ああ…僕はうれしい!僕はいい妻をもった!」と、云うが早いか、はげしく接吻の雨を降らしたのである。
その、人前もはばからない愛撫は天真爛漫で、私たちは喝采をもって祝福した。
じっさい小雪のかくし芸は、他の誰よりもすばらしく、山の情緒がみちあふれてこだまをうった。が、それにも増して、いま私たちの前でおこなわれているふたりの愛の表現は、ちっともいやらしさがただよわず、これまたさきほどの芸の連続としか思われないほどだった。私たちは、まさしく世にもうるわしいものを見、聞いたのだ!みんなは魂をうばわれて、ボーッとして「所望…」のアンコールさえも忘れていた。
ところが、小雪は順吉をすりぬけるとちょこなんと畳の上にすわって…すすりなきをはじめたではないか。私たちはどうしたものかとぼんやり眺めていると、
「…うち、若様をこげにしてしまってからに、すまなくて……すまなくて、なにも知らんこげなもんのために……若様を不幸にして…」としゃくりあげてむせび泣くのだ。
「おいおい小雪、こんなに僕が幸福だのにお前はわかってくれないのか…?園田家が何だ、財産がなんだ、それよりか小雪とどんなに貧しくても、真実の愛の生活がのぞましいんだ!」順吉はそういって、やさしく小雪の背中をなでてやった。
「…うち、若様をこげにしてしまってからに、すまなくて……すまなくて、なにも知らんこげなもんのために……若様を不幸にして…」としゃくりあげてむせび泣くのだ。
「おいおい小雪、こんなに僕が幸福だのにお前はわかってくれないのか…?園田家が何だ、財産がなんだ、それよりか小雪とどんなに貧しくても、真実の愛の生活がのぞましいんだ!」順吉はそういって、やさしく小雪の背中をなでてやった。
やがて小雪は泣くのをやめて、なきぬれていっそう可憐なまなざしをあげると、
「いつ…お捨てになってもいいけに」とまじめに云ってひとりでうなずいた。
「ばかばか、なんてことを云うんだ、こいつめが!こいつめが!」
可愛くてたまらないと、というふうに力いっぱいゆすぶりつけると、しまいには順吉自身も泣いていた。
それは「山鳩」(*第一章 山鳩の小雪)の続きを見ているような、それみずからが作品そのものであった。たくらみやケレンのみじんもない、生(き)のままの無技巧さが燦然とひかりかがやくのだ。たしかに小雪のことばは封建そのものであったが、しかもこの場合はそうひびかないどころか…むしろ純粋な献身としか聞こえなかった。いつまでもいつまでも、別れないでほしい、というのが世間一般の女性のならわしであるのに、小雪はそのあべこべを云って、それがたまらなく順吉の魂をつかむのだ。私たちには、この小雪の言動からいささかの卑屈さもうけ取れなかった。
愛する人をどんなにしたらもっと幸せにできるか、そうしたときの女性のあらわす最も気高い、献身無私のすがたではないか。西洋や、都会の進歩的な女性たちには、それ相応の言い分の建前もあろうが、だからといって小雪のこのひたむきな態度を蔑むことができようか…?
~中略~
「僕はね、もしもこの次になにか書くとしたら『小雪の話』というのを綴りたいなあ、小雪が毎晩つぎつぎ出まかせに語る山の話…」順吉は幸福そうにため息をついた。
「ふしぎ、町に住んだら、山が生きてきたけに」小雪は小首をかしげてつぶらな瞳をまたたいた。
~中略~
順吉はさびしく出征した。いやけっしてさびしくはなかった。なぜといってすっかり形式化された壮行会よりも、こころから通じ合ったごく少数の人たちの真意のほうがのぞましかったから。というよりも、ただ一人の小雪の、百万人にもまさる愛があったから。列車の窓で、
「わすれちゃならないことは…お互いに心に翼をはやすことだ。小雪、遠く離れれば離れるだけ、かえってよけいに親しく会えるんだよ。このことをお互いにかたく信じようね」と順吉は手をのばしてかの女の頭の上においた。
「ほんと、…あなたもお体を大切に」
「お前こそ、ときどき山へ深呼吸をしに行くがいい。心配事があったら、大谷君たちに相談するんだぜ」
「私はのんきものだけに、結構たのしくくらします」と小雪はこころからのんきそうにわらって、ふと「あなたの坊主頭、思い出す……中学生みたい!」
順吉は、坊主頭をなでて微笑んだ。私たちもわらった。列車が動き始めると小雪は順吉の手をにぎったまま歩きながら、ものもいわずにジイッとみつめて…手を離した。~中略~
「お前こそ、ときどき山へ深呼吸をしに行くがいい。心配事があったら、大谷君たちに相談するんだぜ」
「私はのんきものだけに、結構たのしくくらします」と小雪はこころからのんきそうにわらって、ふと「あなたの坊主頭、思い出す……中学生みたい!」
順吉は、坊主頭をなでて微笑んだ。私たちもわらった。列車が動き始めると小雪は順吉の手をにぎったまま歩きながら、ものもいわずにジイッとみつめて…手を離した。~中略~
小雪は、ひとりぼっちになると、すぐにも山へ帰るだろうと思っていたら、やはり湖畔の市の経師屋の二階に下宿して働き続けた。