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Channel: 舟木一夫の世界~れんげ草の咲くさんぽ径~
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ちょっと箸やすめ~友人主催のイベント/歌人・道浦母都子さんのことなど

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今年は、夏が長く、初秋の風を感じる間もなく、気がつけば、紅葉の季節となってしまった感がありますもっとも、私個人の日々の暮らしが、せわしなかったということもあるかもですが…。

すこし遠出をして、深まりゆく秋景色を楽しみたいとは思いつつも、どうやら、霜月も颯のように過ぎ去って師走に突入しそうです。そんな慌ただしい中ですが、13日に大阪まで行ってきました。

関西に住み始めた三十代から、ずっと親しくお付き合いのある友人夫妻が、定期的に企画・開催している、とってもユニークなイベントで、今回は、特に私が若い頃から大好きだった歌人・道浦母都子さんを招いての会ということだったので、時間をやりくりして出かけました。いつものように近鉄特急で往復4時間ほどのプチ旅で短時間にスケジュールを詰め込み、ちょっとばかり疲れましたが、久々にお気に入りの国立文楽劇場で文楽も観ることができて、いい時間を過ごせました。
今回も、私の覚書として、日記に記しておきます。よろしければお付き合いくださいね。


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道浦母都子   無援の抒情     われらがわれに還りゆくとき

写真、向かって右端が1980年雁書館の初版、中央が1990年岩波同時代ライブラリー、左端は2000年岩波現代文庫、手前が2015年新装版(ながらみ書房)と、ほぼ十年ごとに復刊されています。歌集としては、とても、めずらしいロング・セラーだと思います。

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私は1990年に刊行された岩波書店・同時代ライブラリーで初めて、この歌集に出逢いました。

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イメージ 20このイベントでは、道浦さんのご両親が、戦後の混乱の中、朝鮮半島から命からがら引き揚げてこられたこと。そして、彼女のご一家を助けてくれたひとりの朝鮮の青年がいたこと、道浦さんは、ご両親が日本に無事還りついた後の昭和23年生まれであることから、その青年の親切がなければ、自分は存在しなかった。そんな自分に、何ができるのか…とずっと自分に問い続けているということをはじめ、本当に多岐にわたる様々なテーマをお話しになりました。


また、上記にアップしたチラシには、都はるみさんの写真が掲載されています。「邪宗門」という歌は1998年3月にリリースされたものだそうです。そして、その作詩をされたのが、道浦さん。私自身は、友人がイベント開催日の数日前にメールで送ってくれたチラシを見て、「?」都はるみさんと「邪宗門」と道浦さん…「邪宗門」が高橋和己*の小説であることは知ってましたが、はるみさんと「邪宗門」が、全く結びつかず、恥ずかしながらネットで調べて、初めて道浦さんとはるみさんの接点がわかったという次第。

*高橋 和巳(たかはし かずみ、1931年8月31日 - 1971年5月3日)
日本の小説家で中国文学者。夫人は小説家の高橋たか子。中国文学者として、中国古典を現代人に語る事に努める傍ら、現代社会の様々な問題について発言し、全共闘世代の間で多くの読者を得た。


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道浦母都子という歌人は、「時代の生んだ短歌界の偶像」のような側面を持っていると私は勝手に思っています。 彼女と同時代に青春を送った世代…いわゆる全共闘世代…というのは、政治的であろうとなかろうと記憶の中に青春の息吹とか迷いとかいうものを抱えていたあの時代の自分があると思います。後年、「無援の抒情」が刊行された1980年、あるいは1990年には、30代か40代になっていたはずですが、この歌集を手にとった時に、きっと青春時代の自分に出逢い直したような想いになったのではないかと思います。私自身も、そうでした。1952年生まれの私は、「全共闘世代」には少し遅れてきた世代ですが、それでもあの東大安田講堂封鎖と、それに続く学生たちと機動隊の激しい攻防戦をリアルタイムでテレビ画面をとおして目撃した世代です。


「邪宗門」「枯木灘残照」/道浦母都子作詩、都はるみ歌唱

以下は、ちょっと話が飛んでしまいますが、2008年5月に「婦人公論」に掲載された記事です。


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邪宗門(JA SHU MON) 作詩:道浦母都子 作曲:弦哲也
1998年3月



残照の光の海をイメージ 12
二人行く ふたりゆく
花のごとかる罪を抱きて

ただ一本買いしコスモス冷たくて
素直なるかな 花の透明
昼深く 夢に見ている しろじろと
煙れるまでに 熱持つ乳房
物語をつくるのはわたし
世界を生むのはわたし
あゝあなたを
あなたを愛して
あかねさすわたし

愛しては ひとを追いつめたりしこと
野火のごとしも 夏の終わりの
洗い髪 濡れて光れる そのままを
あなたに倒れて ゆくまでの愛
扉を開くのはわたし
季節を生むのはわたし
イメージ 13あゝあなたを
あなたを愛して
あかねさすわたし

漲れる男の体 寒の夜を
抱きしめれば 樹液の匂い
もろともに 藍ひといろの湖(うみ)となり
森となりゆく 透きてゆくまで
天空を翔けるのはわたし
虹を生むのはわたし
あゝあなたを
あなたを愛して
あかねさすわたし

残照の光の海を
二人行く ふたりゆく
花のごとかる罪を抱きて
花のごとかる罪を抱きて




枯木灘残照  作詩:道浦母都子 作曲:弦哲也
https://youtu.be/e83WOQAEm-M



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両手(もろて)にて君が冷えたる頤(おとがい)を
包みていしは冬の夕駅
君に妻われに夫(つま)ある現世(うつしよ)は
姫浜木綿の戦(そよ)ぐ明かるさ

イメージ 15歳月(とき)はながれて歳月はながれていまひとり
あゝ残照の枯木灘
ひたすらにあなたのもとに翔けてゆく
煌(きらめ)きつづけよ光の凪(なぎ)よ

取り落とし床に割れたる鶏卵を
拭きつつなぜか湧く涙あり
乳房の尖(さき)に点(と)もれる蛍火の
ほとほと紅しほとほとやわし
夢に疲れて夢に疲れて立ちつくす
あゝ残照の枯木灘
子午線を越えて吹き来る潮騒よ
夜のしじまにこの身も攫(さら)え


道浦さんとはるみさんとのご縁、また、中上健次氏とはるみさんのご縁について記されています。
和歌山 連 ふるさと再生と文化特集 「紀」になる人インタビュー
~都はるみさん、枯木灘を歌う~
http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/000200/ren/web/ren13/11_news.html


昨年の12月以降、都はるみさんは、「活動休止」ということだそうですが、道浦さんは、また「邪宗門」「枯木灘残照」をはるみさんの歌で聴きたいとおっしゃっていました。いろんな事情があるようですが、「あきらめてません」とおっしゃっていたのが印象的でした。私も、ぜひ、ライブでお聴きしたいと願っています。


下記のサイトに道浦さんと都はるみさんとの出逢いなどが記されています。
季刊「現代の理論」 連載●シリーズ「抗う人」⑯ 
反体制でありたい・・短歌の世界で表現活動を続ける~道浦母都子

http://gr-test.gendainoriron.jp/vol.09/serial/se01.php



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先輩歌人から、短歌表現の甘さを指摘されたり、同世代のある女性歌人は、道浦さんの歌を「センチメンタル」と評しています。でも、「時代を代表する歌人」という意味では、誰もが認める歌詠みであることも同時に評価しています。

イメージ 19出世作となった歌集も、「無援の抒情」とタイトル付けられているように、その歌が「抒情性」にみちているのが道浦さんの個性であり、最大の魅力でもあります。

前述したように、多かれ少なかれ、学生運動の盛んだった時代の空気を吸ってきた世代は、道浦さんの歌に、少なからず共感できるのだと思います。それは、まるで自分の青春時代の心象風景を甦らせてくれるような力を蓄えているかのようにも思えます。

同時代の道浦さんとほぼ同世代の歌人は、数多く輩出していますが、彼女の「無援の抒情」という歌集と歌人・道浦母都子は、群を抜いて最も自分と近い距離にある存在となっているのではないでしょうか。
フィールドは違いますが、それは、舟木さんが今も、「青春」のシンボルとして色褪せず私たちの前に存在しているのと、似たような印象を、私は道浦母都子さんのご活躍を見ていると感じます

舟木さんも、道浦さんも、「あなたやわたし」の青春も一緒に背負って、今もなお変わらずにご自身の道を貫いているように思います。

舟木さんの自作の曲、男女の愛の切なさ、哀しさを歌ったこの歌も1998年にリリースされています。


夢幻~MUGEN  作詩・作曲:上田成幸
(1998年 WHITEⅢ)
https://youtu.be/yFqaYbUbBsc

イメージ 17黒髪(かみ)のみどり 朱(あか)く燃えおち
爪のあと 遠くなみうち
男は男 女は女
そしてはるか 夢幻

けだるさに ほてる指先
からめれば
いたみひとつ 想いふたつ

ルルル……
いたみひとつ 想いふたつ



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