左から舟木一夫、林与一

痛快で朗らかな芝居と、新曲名曲づくしのコンサートで、ハッピーな年忘れ公演を!
63年に「高校三年生」で華々しくデビューを飾り、再来年には芸能生活55周年を迎えるキャリアがありながら、歌に芝居に、いまだスターとして輝き続ける舟木一夫。97年の『野口雨情ものがたり』を第1回に、その後も本格的な舞台と圧巻のコンサートという二部構成で、観客を魅了してきた新橋演舞場の『舟木一夫特別公演』が、12月1日にその第15回目となる公演の幕を開けた(23日まで)。
 
今回の内容は、第一部では、幕末の英雄・勝海舟の父・勝小吉がモチーフの『―巷談・勝小吉―気ままにてござ候』。第二部では、大ヒット曲や新曲を中心に、昼・夜別構成での『シアターコンサート』となっている。また、舟木の71歳の誕生日にあたる12日の「バースデースペシャルイベント」をはじめ、おなじみの「みんなde舟木」や、平日夜の部の公演での「みんなniプレゼントナイト」など、サービス精神あふれる企画ももりだくさんだ。

キャストは、座長の舟木一夫をはじめ、舟木とは今回が初共演の、劇団新派を代表する女優・水谷八重子。歌舞伎俳優として活動後、映像や商業演劇の世界に身を移し、舟木とは親友でもある林与一。劇団新派唯一の女方、英太郎。松竹新喜劇などで活躍中の曽我廼家文童など、個性豊かな実力派ばかりが揃った。

左から舟木一夫、水谷八重子
 

『―巷談・勝小吉―気ままにてござ候』
 
あらすじ】
時は江戸。旗本・勝家の婿養子である小吉(舟木一夫)は、無役の上、喧嘩好き。乳母・お熊(英太郎)とともに、職を求めて各所に日参するが、すぐ短気を起こし、うまくいかない。そんな小吉に怒った勝家の祖母・環(水谷八重子)から、役職につくまで小吉の許嫁で孫のおのぶ(葉山葉子)と祝言はさせないと宣言されてしまう。そんな中、ある出来事をきっかけに家出同然に出奔してしまった小吉。そこへ、おのぶが身重との知らせが…。

セミの鳴き声のなか、英太郎が扮する乳母お熊の「おぼっちゃまぁ~」の声に呼ばれて、柄入りの華やかな裃姿で二本差し、首には手拭巻き、扇子で暑さをしのぐ舟木一夫の勝小吉が、花道からさっそうと登場する。仕官のため、いやいや上役回りをしていることがよくわかる、言葉遣いは丁寧だけれど口だけのご挨拶。数軒回っただけで放り出してしまう気の短さ。これは女が放っておくまいという、すっきりした容姿、可愛げ。勝小吉がどんな男なのか、冒頭の場面だけでもすぐわかる。普通の武士なら口にしない“本音”もハッキリ言ってしまう。喧嘩となれば、大事なおのぶとの約束もアッサリ破ってしまう。武士のルールからすればどうしようもないけれど、それに縛られない、人としてのスケールの大きさ、破天荒さ、江戸っ子の気風、周りを怒らせたり心配させても、結局は許される愛嬌。実に若々しく、チャーミングな小吉である。
英のお熊は、小吉が生まれたときからずっとこうして傍を離れず「おぼっちゃま、おぼっちゃま」とかいがいしく、どこまでも深い愛情で守り育て、付き従ってきたことが目に浮かぶような乳母。英のやわらかな雰囲気もぴったり。かくしゃくとしたお熊と小吉とのやりとりはとてもほのぼのして、コミカルで、観客の笑みを誘う。
そんな、どこまでも自由な小吉に手を焼くのが、勝家の祖母・環。「この、おろかもの~!」という開口一番から、さっそく小吉との相性の悪さが手に取るよう。水谷八重子の環は、おのぶの祖母として家を守る、どっしりとした肝っ玉の女性。「けしからん」とは思いつつ、心の底からは小吉を憎めないところや、ひ孫の麟太郎(後の海舟)にデレデレな様子も微笑ましい。

舟木一夫 (2)

小吉の素行不良のせいで、祖母には祝言を許されず、喧嘩をやめてと頼んでも聞き入れてもらえず、子どもができればトンでもないことを言われ…と、小吉にさんざん振り回されるおのぶは葉山葉子。怒ったり呆れたりしながらも、小吉を愛し続ける一途さ、武家の娘ならではの気丈さ、品の良さが印象的。
小吉が小さな店を出した両国の道具市で、お隣どうしの占い師・関川は曽我廼家文童。長髪に帽子の、いかにも易者らしい出で立ちに、「手相、人相、足の相~」などの口上。漂ううさんくささが、たまらない。市が荒らされ、小吉に助けを求めるあたりのドタバタも、松竹新喜劇で鍛えられた絶妙な間が光る。
昔、小吉が家出したとき世話になった乞食の元親分で、今では江戸でヤクザ稼業をしている観音の弥三郎は林与一。吉原の店先で、最初は敵どうしで刃物を向けるが、互いにそれと気づいた瞬間、あっという間に長い年月が埋まる、その絆の深さがにじみ出る。数年後、出世をした弥三郎の佇まいは、ぼろを着ていた頃とは別人のように苦み走り、貫禄十分。
また、記念すべき第1回公演に出演していた笹野高史がナレーションをつとめて、公演に華を添えている。

舟木一夫

お熊との軽妙なやりとり、鉄砲玉のような喧嘩っぱやさ、おのぶとの心の通い合い、利発な息子に頭のあがらない様子、環とのすったもんだ…大きな事件こそ起こらないが、小吉と周囲の人々の日常、さまざまな人物のひととなりが、大らかに、朗らかに描かれていく。『一本刀土俵入』を思わせるような、最後の桜舞い散るなかでの大立廻りは壮観で、小吉と麟太郎のやりとりも、この型破りな父と、辛抱強い母があって勝海舟ありと感じさせ、グッと込み上げるものがあった。



【第2部 シアターコンサート】
 
舟木一夫 シアターコンサート㈰ 

幕が上がると、ステージ中央に階段、それを挟んでピアノ、ドラムス、ホーンセクション、コーラスなどの本格的なバックバンド。ステージの後ろには、ネオンのバーが輝き、大仰なセットはなくともムードは満点だ。ステージの上に舟木が現れ、「なつかしいこの街に…」と1曲目は『眠らない青春』から。“青春”という舟木のイメージどおり、『あゝ青春の胸の血は』『友を送る歌』などのナンバーが続く。昼の部では「日本の名曲たち」として、1~7日、6~15日、16~22日と期間によって曲が変わる趣向で、初日は『函館の女』ともう1曲。歌謡界の先輩のレパートリーも、自分の世界にひきよせて歌いこなす。『絶唱』で始まる後半は、名曲『高校三年生』や、舟木自身が「大人を包んでくれる歌に出会えた」と惚れこむ『春はまた君をいろどる』など、名曲新曲大ヒット曲を織り交ぜ、歌手・舟木一夫もパワー全開。『銭形平次』では、総立ちの客席にテニスボールを投げ入れるファンサービスも。
力いっぱい張らなくとも、伸びやかで、緩急自在で、楽曲のどのような色合いも繊細に表現するその歌唱力は、53年間ひたすら歌い上げてきた証。先日発売したDVD『舟木一夫シアターコンサート2015』が、オリコンDVD音楽ランキングで初登場10位を飾ったのも納得の歌声である。

舟木一夫 シアターコンサート㈫

また、“スター”のイメージからは意外なほど気さくで、親近感のあるMCも楽しみの一つ。第1部の芝居のこぼれ話、自身の今、将来のこと…ざっくばらんなトークで、客席とのコミュニケーションもたっぷり。初日、なんと『高校三年生』の歌詞を間違えるハプニングが。その後のMCで、「歌詞を間違えて一番罰金が高いのは『高校三年生』なんですよね」と、内輪ネタで冗談交じりに自分をイジる茶目っ気も、ファンにはたまらないだろう。

舟木一夫 シアターコンサート㈪

破天荒な江戸前のいい男・勝小吉を中心に繰り広げられる、根っからの悪人がいない、晴れ晴れとした痛快な芝居『―巷談・勝小吉―気ままにてござ候』。そして、歌にMCに、駆け抜けるような『シアターコンサート』。いずれも、エンターテイナーとしての舟木一夫の魅力が凝縮された、圧倒的なステージである。

【取材・文/内河文 写真提供/新橋演舞場】